巣鴨課長:なるほどね。それで、この結果をもとに投資回収計画を見直すとどうなるの。
千石君:下の表の通りです。

要件膨張後の年度別投資回収計画(出典:IPA/SEC)
千石君:この通りだとすると開発維持の費用は計画時の予算の1.4倍、投資回収時期は2年先にずれ込みます。これでは開発工程に進めそうにありません。決裁を通す自信がないです。
巣鴨課長:まあそう落ち込まないで。なるほどね。生涯損益もだいぶ悪化しているね。このまま出して「はい了解、この先もこの調子で頑張って」って計画の修正がすんなり認められるようだったら、別の意味でこの会社は大丈夫かって心配になるような内容だね。
千石君:どうしましょう。
巣鴨課長:それをこれから考えるんだ。作業の流れはこの前説明したよね。以下の通りだよ。
- ギャップ部分の追加開発の要件を確定する(フィット&ギャップ分析したときに想定した機能から膨らまないように現場の期待値をコントロール)
- パッケージが動作する環境の要件(非機能要件)を定義する
- パッケージ費用、カスタマイズ(オプション機能に追加開発)で対応する機能、ギャップ部分の機能の確定と開発費用の概算を出す
- 非機能要件を実現するために必要な費用の概算を出す
- パッケージ保守費、運用環境の維持費などの概算を出す
- 広告宣伝費やオペレーターの教育、マニュアル作成など付帯する作業の洗い出しと費用、期間の概算を出す
- このパッケージで計画を達成できるか振り返る
千石君:ありがとうございます。このフローはプリントして自席の前に貼ってあります。
巣鴨課長:立派だね。僕も途中の成果物を全てチェックできたわけじゃないが、見たところ、君は1から6までをちゃんとやっている。1はちょっとツメが甘かったけど、まあそれは勉強代だ。今は7の振り返りをやった結果、次の課題が浮かび上がったというところだ。
千石君:課題だらけです。どうしましょう。
巣鴨課長:今回は弱気だね。大丈夫だよ。要件定義を任された人は、だれでも似たようなミスをやっている。むしろ、早めに分かってよかったじゃないか。今気付かずに次の工程に入って、開発委託先から要件定義の不備を指摘されて大幅な手戻りなんてことになったらそれこそ大変だ。やっぱり千石君にお願いしてよかった。
千石君:褒められるとつけ上がります。教えてください。膨張した要件を絞り込むには、どうすればよいでしょう。
巣鴨課長:そうだな、こんなのどうかな。
~~明日のために~~
- その業務はもっと簡素なフローでできないか考えるべし
- その機能は本当に“今”必要か見直すべし
- 後でもいいんだったら思い切ってやめるべし
- 効果が出ないと思ったらやり方を変えるべし
- 効果が出ると確信できたものだけを自信持って押すべし
巣鴨課長:とりあえずこんなところかな。
千石君:課長、何か楽しそうですね。それって『あしたのジョー』ですよね。親父から聞いたことがあります。いや、じいさんだったかな。一つずつハガキで届くんですよね。
巣鴨課長:本当に送ってやろうか。
千石君:おかげで大分気が楽になりました。ところで回収計画の方はどうしたら…。