海外では数年前から、日本でも4月に注意喚起が出されるようになった「ビジネスメール詐欺」(Business Email Compromise:BEC)で、攻撃者が以前よりも簡単に標的から情報を盗み出す手口が使われ始めたようだ。
BECは、悪意のある人間もしくは集団が、特定の企業や組織の幹部あるいはビジネスの関係者になりすましたメールを送り付け、相手から機密情報を窃取したり、金銭を振り込ませたりするサイバー攻撃。例えば、攻撃者が経営者になりすまして経理担当者に「資金が必要」と銀行口座への振り込みを依頼するといった手口や、キーロガーなどのマルウェアを仕込んだファイルを開かせて受信者がキーボード入力した内容を窃取するような手口が知られる。
トレンドマイクロのレポートによると、新たな手口では、攻撃者が相手をだますメールにHTMLファイルを用いる。攻撃者はサービス事業者になりすまし、相手に「特別価格のご案内」といった内容のメールを送り付け、HTML形式の添付ファイルを開かせる。受信者がこのファイルを開くとウェブブラウザが起動し、各種メールサービスのロゴやリンクが表示される。

HTMLファイルを使ったBECのメール攻撃(出典:トレンドマイクロ)
受信者がメールの内容を確認するには、ウェブブラウザに表示されるサービスへのログインが必要で、受信者が自身のアカウント情報を入力すると、密かにその情報が攻撃者に送信されるという仕掛けになっている。同社は、ナイジェリアでこの仕掛けを販売するネット広告も発見したという。
キーロガーを使うような従来型の手口は、相手にメールの添付ファイルを実行させる手間があるものの、それに成功すれば情報を窃取できる。しかし、この手法による攻撃をセキュリティシステムで検知するなどのBEC対策が進展している。
このため攻撃者は、メールの内容が悪意のあるものだと知られない限り、セキュリティシステムで検知されにくいHTMLファイルを利用し始めたという。相手に情報を入力させる手間はあるが、相手のメールやウェブブラウザなどの環境を使って攻撃を実行できる手軽さもあるという。
同社の観測では、HTMLファイルを使ったBECの攻撃はこの1年間で増加しており、国別では米国の8430件を筆頭に、日本でも183件が確認されている(6月30日現在)。相手をだます内容では、「領収書」や「支払い」「請求」が上位を占めていた。