あらゆる「ユーザー」にフォーカスする発想を
工業製品分野でのデザイン思考の応用について、Rao氏は次のような指摘をする。
「ユーザーエクスペリエンスにフォーカスするデザイン思考を活用して、プロダクトエコシステムやプラットフォームなどを改めて再構築することも可能になるだろう。また、ここでいうユーザーとは、最終消費者だけではない。開発者、メンテナンスの担当者もユーザーの一部だ。こうした人たちの視点から、保守作業や品質テストのしやすさを見直すことで、製品の質そのものをレベルアップすることが可能になる」
さらにRao氏は多くの日本の製造業が進めている「コンカレントエンジニアリング」についても言及する。
「日本企業は、世界でも屈指の技術力があり、組織も成熟している。そうしたことから、製品の開発期間を短縮するため複数の開発工程を同時並行で進めるコンカレントエンジニアリングでも、大きな成果を挙げている。こうした日本企業の得意分野でも、デザイン思考を導入することで、部門間の情報共有や共同作業の面で、さらに進化されることができるはずだ」
デザイン思考でフォーカスするのは、製品やサービスを使うユーザーだけでなく、開発者などすべての人のエクスペリエンスだというRao氏の指摘は、大変興味深い。
デザイン思考は、4~5年前、「イノベーションブーム」華やかなりしころ、日本でも盛んに紹介されるようになった。当時は、これまでにない画期的な製品やサービスを生み出すという意味で使われる「イノベーション」という言葉とセットで語られていた。
しかし、Rao氏の解説から、もっと柔軟で、適用範囲が広いものだということが分かる。デザイン思考は、確かにまったく新しいものを生み出す可能性を持つ発想法だが、それだけを期待して利用するのはもったいない。業務プロセスや既存のセールス手法、サービス提供の仕方など、当たり前のものとしてとらえていることに活用することで、想定以上の成果を導き出せる。