介護×AIを展開するデジタルセンセーション
一方のデジタルセンセーションは、静岡大学教授だった竹林洋一氏(現会長)が2004年10月に設立した静岡大学発ベンチャー。竹林氏は東芝の研究者だったこともあり、同社は東芝からの受託開発も請け負っていた。そうした中で、約3年前に介護向けIT活用にフォーカスする。資金調達はその一環でもある。
開発した介護向けシステムは、フランス生まれの「ユマニチュード」と呼ぶ認知症ケアの新しいコミュニケーション技法の効果的な導入を支援するもの。スマートフォンなどで撮影した介護の実況動画を使って、「相手と話す距離が遠いので、介護を嫌がられた」などと問題点を指摘し、「顔を20cmに近づけること」などと、画面にペンで書き込みながら指導する。
この手法の導入効果は証明されているという。たとえば2016年末、福岡市内の病院や施設で、約100人が2時間の研修を受けた結果、介護拒否が20%低下し、介護の負担が30%減ったという。そこに、AI機能を取り込むことで、より多くの人を介護者にすることを可能にするという。具体的には、「こうしたらいい」という指導を繰り返し学習したAI自身が、介護の問題点と解決策を自動的に介護の動画に書き込む。結果、技法の習得者を増やせる。
だが、このサービスを展開するデジタルセンセーションが「IPOしても、ビジネスサイズに限界がある」(石山氏)。大きな企業規模になれないということ。一方のエクサインテリジェンスは、AI市場で勝てるドメンを作りたかった。それも合併の理由だという。
両社の合併によって、社員数は約40人になり、うちAIエンジニアは約20人になる。ディープラーニングなどAI技術そのものの研究開発ではなく、AIをビジネスに効果的に活用するアイデアにも優れたエンジニアらである。そんなエンジニアらがAIソリューションの普及に向けて、AIプラットフォームの適用を強化する。製造、医療から教育などへと顧客層を広げる。デジタルセンセーションの介護向けがその1つになる。たとえば、その仕組みを顧客対応に応用する。接客の上手な人には裏マニュアルのようなものがあるが、ヒアリングだけではよく分からない。そこで、撮影した接客中の動画を解析し、顧客の満足向上、購買などにつながる接し方を画面に書き込み指導する。
リクルート時代、米シリコンバレーに新設したAI研究所の初代所長を務めたり、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に携わったりした石山氏は「市場に資金があふれている」と期待する。確かに、デジタル化を推進するため、AIベンチャーらに数億から数十億円投資する日本の大手企業が増えている。彼らとの協業は、開発力を増し、サービスの品揃え拡充につながる。「2社の統合によって、AIに精通し、経営者の視点を持つAI企業になる」(石山氏)。成長への環境が整ってきた新生エクサインテリジェンスの次の一手に注目する。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。