ビッグデータ活用をカギにデジタル変革を実現--5つの事例に学ぶ - (page 4)

　学生の成功や、在籍率、卒業率の改善は、マイアミ大学が進めているビッグデータとデジタル変革に関する取り組みの重要な目的だ。Kabbaz氏によれば、学生の大学選びに多くの選択肢がある中、マイアミ大学は、可能な限り質の高い教育を提供し、市場での競争力を維持するためにデータを利用しているという。

　Kabbaz氏は、組織の中に懐疑的な人物がいれば、データの価値を明確に説明する必要があると述べている。例えば、もしデータによって学生が傷つくかもしれないと恐れる教員がいれば、それらの教員に対して、学生の教育や、大学での体験をどう改善できるかについて、納得してもらう必要があるという。

5．ニューヨーク長老派教会病院

　ニューヨーク長老派教会病院では、患者の管理と安全性基準の遵守という2つの重要な目標を達成するために、ビッグデータが使われている。同病院のシニアバイスプレジデント兼CIOを務めるDaniel Barchi氏によれば、患者管理のデジタル変革は、同病院の臨床業務センター（CLOC）の建物から始まった。この建物では、看護師がワイルコーネル医療センター救急部に収容されている患者の生理学データをリアルタイムで監視している。

　「看護師は、CLOCで勤務する8時間のシフトの間、数百の医療データポイントを監視し、アラームや臨床的な問題に気を配り、ベッドサイドにいる臨床チームと所内通信ネットワークを通じてコミュニケーションを取っている」とBarchi氏は言う。「わが病院は、臨床経験を生かして、忙しいベッドサイドの看護師には見過ごされる可能性のある潜在的な問題に気付いて対応できる体制を敷くことで、高水準なセーフティネットを提供している」

　このシステムが導入されたことで、診察が必要な患者や治療を改善する必要がある患者をより明確に特定できるようになった。

　またCLOCでは、6つの病院にある1600台以上の冷蔵庫や冷凍庫の温度データもリアルタイムで取得している。これらの機器には、血液や抗生物質、母乳などの液体が保管されている。以前はこれらのデバイスの温度を、スタッフが手動で1日2回チェックしていた。

　しかし同病院は、デジタル変革の取り組みの一環として、すべての冷蔵庫と冷凍庫にネットワークに接続された監視センサを設置し、CLOCの報告監視システムにデータを送信することにした。

　この情報により、同病院ではこれらのデバイスを簡単に休みなく監視できるようになった。この新しいデータには、多少の揺らぎがあることが予想されていたものの、実際にデータを取ってみると、一部の冷凍庫では許容できる狭い温度帯の上下に温度がぶれていることが明らかになった。温度はそれらの基準値の上下に、正弦波に近い曲線を描いて変化していたという。

　「リアルタイムデータによって、900台以上の冷蔵庫に交換やアップグレードが必要であることが判明し、血液や薬剤の全体的な安全基準準拠体制を改善することができた」とBarchi氏は述べている。

　Barchi氏はビッグデータをデジタル変革に利用しようと考えている組織に対して、あらゆる自動監視の可能性を検討するように勧め、ニューヨーク長老派教会病院では、これによって臨床業務が改善され、作業を集中化でき、明確で対応可能な知見を活用できるようになったと付け加えた。