米Oracleの年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2017(OOW2017)」が米国時間10月1日、カリフォルニア州サンフランシスコで開幕した。会長兼最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison氏がデータベース最新版の「Oracle Database 18c」(18c)を発表した。
パッチ漏れでデータも漏れる
Oracle会長兼CTOのLarry Ellison氏
OOW2017には、昨年とほぼ同様の約6万人が参加する。4日間の会期中には2311のセッションが開かれ、オンラインを加えると全体では175カ国、43万人が参加する予定だ。メイン会場のMoscone Convention Centerではリニューアル工事中で、会場の規模は例年よりやや手狭だが、参加人数はほぼ変わらないことから、文字通り密度の濃い雰囲気を醸し出している。
カンファレンスの実質的スタートになる初日夕刻の基調講演に登壇したEllison氏は、OOW2017発表の目玉に18cとサイバーセキュリティの2つを挙げた。この日は18cを中心に説明し、会期3日目夕刻の2度目の基調講演でサイバーセキュリティに触れると述べた。発表の背景には、9月上旬に発覚した米Equifaxの情報流出事件があるようだ。
Ellison氏が18cで最も強調したのは、“自律型データベース”という特徴だ。開口一番に「最も安全なことはデータを自律的に守ることで漏えいを防ぐことだ」と述べる。例えば、標的型攻撃のように攻撃者がシステム内部に侵入して機密データを持ち出すといった不正行為を、データベースが自動的に検知すれば、脅威のリスクは大いに低減できるという主張だ。現在のセキュリティソリューションは、データベースへ侵入される前に対応するものが主流だが、同氏はデータベース自体にその機能を持たせる考えだ。
世界最初の自律型データベースをうたう18c
セキュリティにおける具体的な内容は会期3日目の講演で説明される見通しで、初日の基調講演では18cが実現するというデータベース管理の“自動化”と、Ellison氏が競合と見るAmazon Web Services(AWS)のRedshiftへの対抗策を語った。
18cについてEllison氏は、「世界初の自律型データベースの実現は、インターネットの出現に匹敵する技術革新である」と力説。データベースにまつわる多種多量な情報を機械学習によって学習し、そこから常にベストな稼働環境を自動的に維持するという。車の自動運転あるいは航空機の自動操縦も、人間によるシステム操作の膨大なデータから学んだ知見やノウハウをもとにシステムが自律的に動作する点で同様だと語った。
同氏のいう自律型データベースは、セキュリティの観点では、膨大なイベントログやアクセスログなどの情報から、ユーザーの正規の利用とサイバー攻撃者あるいな内部関係者の不正な利用を高精度に判別し、脅威を防ぐ。より日常的なところでは、データベース管理者によるセキュリティパッチの計画的な適用、あるいはデータベースのチューニング作業が不要であることが良い点だという。
Ellison氏は、人間の手作業によるデータベースの運用管理がセキュリティのリスクと運用管理コストの増大を招いているとしながら、さらにRedshiftへの対抗策を絡めて、18cの特徴や展開を説明した。
18cはOLTPとDWHの2つ
現行のOracle Databaseは「12c」シリーズだが、最新版はいきなり18cとなった。この点についてEllison氏は、「2018年モデルだからだ。自動車の新モデルみたいだろう」と笑いながら言うだけで、次期バージョンが「19c」になるのかといったナンバリングパターンの変更にあまりこだわりはないようだ。
18cは、まず12月にData Warehouse版をクラウドサービス(Cloud @ Customerを含む)およびExadata専用ソフトウェアをリリースし、2018年6月にOLTP版を同様にリリースする計画だ。これらの料金には、2018年第1四半期決算時に発表した新しいライセンスモデルが適用され、最小構成の場合(1CPU/データ処理1TB)では月額300ドルからとしている。
※初出時にOLTP版とData Warehouse版のリリース時期が逆になっていました。お詫びして訂正いたします。
基調講演の後半でEllison氏は、もっぱら18cの優位性に先の四半期決算発表でも言及したRedshiftに対する優位性の主張を繰り返した。
例えば、18cが提供するような自律的な稼働はRedshiftのサービスでは実現しておらず、リソースの変動に対応する柔軟性も自律的な18cの方が高く、運用管理の人件費も含めた総コストは18cの方が優位だとする。さらにEllison氏は、18cのSLAを契約書で稼働率99.995%(年間のダウンタイムが30分未満)を保証するとも述べ、この点もRedshiftには、AWSの規定でさまざまな適用除外条件がある分、Oracleの方が有利だと強調し続けた。また、レプリケーションやディザスタリカバリなどのデータ保護機能も利用できる点で、基幹システムのデータベースとしてはOracleがふさわしいと主張する。
2016年のOOWでEllison氏は、IaaS分野への本格参入を表明して、AWSへの対抗姿勢を強烈にアピールしていた。今年はOracleの“本丸”ともいえるデータベース分野でのAWS対抗を宣言したことで、AWSに対するEllison氏の熱意はますます強まっているのかもしれない。講演の終わりにEllison氏は、Amazonこそが最大規模のOracle Databaseユーザーの1つだとし、直近の1年間に6000万ドルを費やしていると紹介した。
Amazon(AWS)はOracleの巨大なライバルかつ最大規模のユーザーでもあるという
またEllison氏は、データベースが“自律型”になり、データベース管理者が不要になるかもしれないという懸念に対し、データベース管理者が現在日常的に実施している運用管理業務は今後なくなっていくとした。将来は、データベース設計やデータ分析、ポリシー策定などの高度な業務に専念するようになると述べている。
Oracle Database 18cに関するEllison氏の主なプレゼンテーションは下の写真の通り。