この点も、スパイキングニューラルネットワークが他の学習モードにとっても有望とされているところだ。GPUは教師あり学習に適している。というのも、このようなディープニューラルネットワークは大量のアレイをフルに活用できるだけの大規模なラベル付きデータを用いてオフラインで訓練できるためだ。これらのモデルはその後、CPUやFPGA、専用のASIC上に舞台を移して動作することになる(このプロセスは「インファレンス」と呼ばれている)。ニューロモーフィックチップは、その本質的な性質として効率の高さがあるため、教師あり学習にも利用できるものの、スパイキングニューラルネットワークは教師なし学習や、スパースデータによる強化学習に理想的なものともなっている。こういった応用事例として、インテリジェントなビデオ監視システムやロボット工学が挙げられる。
Loihiは世界初のニューロモーフィックチップというわけではない。最も有名なのは、米国防高等研究計画局(DARPA)の長期研究プロジェクトの一環として開発されたIBMの「TrueNorth」だろう。しかしその他にも、スタンフォード大学の「Neurogrid」や、ルプレヒト・カール大学ハイデルベルクの「BrainScaleS」システム、マンチェスター大学の「SpiNNaker」といった取り組みがある。こうしたものは、基板上に実装された複数のチップ(一部ではアナログ回路も使用されている)で実現されており、オフラインで訓練を実施するようになっている。Intelによると、Loihiチップはリアルタイムでの訓練とインファレンスの双方に対応しており、時とともに学習していき、与えられた作業を徐々に上手にこなしていくようになるという。Srinivasa氏は「単一チップ上でこれらすべての学習モードを取り扱えるのはわれわれだけだ」と述べている。
すべてがデジタル回路で実現されているLoihiは、実際のところ14nmプロセスを採用した2つのチップで実現されている。1つはさまざまな前処理(データを受け取り、ニューラルネットワークを発火させるためのフォーマットにエンコード処理を行い、ニューロモーフィックチップにそれを転送する)を実行するシンプルな「x86」プロセッサであり、もう1つはニューロモーフィックメッシュだ。これら2つのチップが同じパッケージに封入されている。Loihiはコプロセッサではない。x86チップにはブート環境と軽量OSが搭載されており、ホストとして動作する。ただ、システムレベルの詳細は現在も取り組みが続いている。