Marc Benioff氏は、1990年代後半にSalesforceを立ち上げたとき、ベンチャーキャピタリストが集まっていることで有名なシリコンバレーのサンドヒルロードを駆け回って、あらゆるベンチャーキャピタリストに売り込みをかけた。大手も、小規模なものも、有名なものもあった。そして、そのすべてに断られた。
Benioff氏の「ソフトウェアを売らない」ビジネスモデルや、同氏が予想したクラウドコンピューティングへの移行を信じる者は誰もいなかった。ところが皮肉にも、Salesforceは史上もっとも早く成長したエンタープライズソフトウェア企業になった。同社のソフトウェアは、過去のものとはまったく違っていた。
Benioff氏は、2017年のGartner Symposiumでの基調インタビューで、Salesforceが成功に至るまでの異端的な道のりと、今でも続いている、同社の慣例に囚われないアプローチについて語った。
聴衆の関心を一番引いたのは、Benioff氏の重要なメンターの1人だった、Steve Jobs氏にまつわるエピソードだ。
「Steve Jobsがいなければ、Salesforceはなかった」とBenioff氏は語った。
同氏は以前にも、Jobs氏との関係に言及したことがある。しかし今回は、Jobs氏から、Salesforceをアプリではなくプラットフォームにすべきだと説得されたことも明かされた。
同氏によれば、Jobs氏は、Salesforceが成功するには3つのことが必要だと語ったという。その内容は「まず、Avonのような有名な顧客を獲得する必要がある。次に24カ月以内に事業を10倍にできなければ失敗する。さらに、アプリケーション経済を確立する必要がある」というものだ。
Benioff氏が「アプリケーション経済とは何なのか」と尋ねると、Jobs氏は「わからない、それは君が見つけ出すんだ」と答えたという。
Benioff氏がその約5年後に「iPhone」の発表イベントに参加すると、Jobs氏はそこで、Appleのモバイルデバイスを中心としたアプリケーション経済の中核となる「App Store」を発表した。
イベントが終わると、Benioff氏はJobs氏に「プレゼントがある」と話しかけた。
Benioff氏はJobs氏のアドバイスに真剣に取り組み、「App Store」の登録商標と「appstore.com」のURLを取得していた。同氏はこのときに、この2つをAppleに引き渡したのだという。
当時Salesforceはすでに「Force.com」をスタートさせており、Force.comは単なるCRMと営業を自動化するアプリから、マーケットプレースを備えたSaaSプラットフォームに発展していた。