FinTechの実際

スーツを着たプロがFinTechベンチャーに誘われたら… - (page 2)

小川久範

2017-10-19 07:30

ベンチャー企業から誘われた時に留意すべきこと

 ベンチャー企業への転職を考えるのであれば、何よりもそのビジョンや事業内容に共感できるか、仕事にやりがいを感じられるかが重要である。なぜなら、転職したベンチャー企業が上場したり、買収されたりするとは限らないので、金銭面の報酬だけを目的に入社しても続かないからである。

 また、ベンチャー企業は基本的にオーナー企業であるため、社長との相性が重要である。大手企業であれば、相性の悪い上司に仕えることになっても、数年間我慢すれば人事異動が訪れる。一方、ベンチャー企業で社長との相性が良くない従業員の未来は、あまり明るいものにはならないだろう。

 これらの面で問題がなければ、処遇について検討することになる。まず気になるのはポジションであろう。仕事のやりがいを求めてベンチャー企業に転職するのであれば、裁量はできるだけ大きい方が良い。ベンチャー企業から望まれて声がかかったのであれば、執行役員や役員を目指してみても良いだろう。

 既存のチームメンバーとのバランスもあるので簡単ではないかもしれないが、本当に望まれる人材であれば希望のポジションに就任できる可能性はそれなりにあると思われる。希望が通らなければ、そこまでの評価は受けていないということで、転職を考える際の試金石にもなる。

 満足のいくポジションが得られるようなら、次は報酬である。大型の資金調達に成功するなどして資金に余裕が出てきたベンチャー企業の場合、社長は月額100万円程度の報酬を得ているとされる。あまりに報酬額が少ないと事業を遂行するモチベーションが低下するため、それなりの報酬を得る経営者が多いようである。一般的に役員や従業員の収入は社長よりも低くなるので、年収を考える際の参考にしたい。

 ただし、どうしても大手企業から引き抜きたい人材に対して、社長よりも高い年収を提示したという話を聞くこともある。自分にそれだけの価値があると思うのなら、強気で交渉してみるのもいいだろう。

 ちなみに、社長よりも高い報酬で入社したある人の例であるが、その人は倒産するかもしれない危機から会社を何度も救い、最終的には会社を上場に導いた。彼がいなければ、その会社は恐らく倒産していたと思われる。それくらいの活躍ができるのであれば、社長以上の報酬も正当化されるだろう。

 ベンチャー企業へ転職する際、最も気になることは株式やストックオプションではないだろうか。大手企業からベンチャー企業へ転職すると、一般的には収入が減るケースが多い。いくらビジョンや事業内容に共感したといっても、そう簡単に受け入れられるのもではないだろう。

 それでも転職者の背中を後押しするものとして、成功すれば一獲千金を狙える株式やストックオプションの魅力は大きい。世の中の課題解決に貢献し、その結果会社が成長し、自らも普通のサラリーマンでは得られないような大金を手にすることができるのであれば、こんなに素晴らしいことはない。

 株式やストックオプションは、持株比率で考えることが重要である。会社が株式市場に上場したら1億円の資産を築きたいという目標がある場合、上場時の時価総額が100億円なら全体の1.0%、200億円なら同0.5%、500億円なら同0.2%の株式か、それに相当する利益が得られる株式やストックオプションを持つ必要がある。

 持株比率は会社が増資すると低下する。最初に全体の2.0%分の株式を持っていても、上場までに増資により全体の株式数が2倍になれば、持株比率は半分の1.0%になる。順調に成長しているベンチャー企業であれば増資する可能性が高いので、自分の持株比率は低下するものと考えておく方が良い。ただし、持株比率が低下しても、会社の時価総額が上がれば自分の資産は増えるので、業績に貢献し会社の価値を高めることが重要である。

 ストックオプションに関する注意点として、日本では2年間は権利を行使できない条項や、会社が上場しなければ権利を行使できない条項が付いているものが多い点を挙げておく。会社が上場せずに買収された場合、株式を持っている人は大金持ちになり、ストックオプションしか持っていない人は何の利益も得られない懸念がある。

 会社買収時のストックオプションの取り扱いについて、確認しておく方が望ましい。会社が上場すれば数億円得られるストックオプションを持つ人が、買収により何の利益も得られなかったケースを筆者は過去に見たことがある。最近はこうした点も配慮されるようになってきていると思うが、後悔しないために確認だけは行っておきたい。

 ベンチャー企業への転職において留意すべきことを述べてきたが、本当に重要なのは入社後にしっかりと結果を出すことである。どんなポジションで入社しても、結果を出せば短期間で昇進することはあるし、反対に結果を出せなければ短期間で降格することもある。

 入社時の待遇は、あくまでもその時点における会社の期待の表れに過ぎない。ただし、だからといって入社時の待遇をまったく気にしないのも好ましくない。報酬が低すぎては仕事に対するモチベーションを維持するのが難しくなる。また、自分よりも後から入社した人の待遇が良いことを知り、複雑な思いをしたという話を聞いたことがある。入社後にやりがいある仕事に集中するためにも、自分自身や家族が納得できる条件でベンチャー企業に転職したい。

 何を重視してFinTechベンチャーへ転職するかは、最終的には本人の価値観による。FinTechベンチャーで働くことに興味があるものの、ベンチャー企業の待遇や報酬制度について詳しくないため、現実的な選択肢として考えられないというのであれば、貴重な機会を逃してしまうかもしれない。本稿がFinTechベンチャーへの転職を考える、スーツを着たプロフェッショナルにとって少しでも参考になり、FinTechにチャレンジする人が増えれば幸いである。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. ビジネスアプリケーション

    生成 AI 「Gemini」活用メリット、職種別・役職別のプロンプトも一挙に紹介

  2. セキュリティ

    まずは“交渉術”を磨くこと!情報セキュリティ担当者の使命を果たすための必須事項とは

  3. セキュリティ

    迫るISMS新規格への移行期限--ISO/IEC27001改訂の意味と求められる対応策とは

  4. セキュリティ

    マンガで分かる「クラウド型WAF」の特徴と仕組み、有効活用するポイントも解説

  5. セキュリティ

    VPNの欠点を理解し、ハイブリッドインフラを支えるゼロトラストの有効性を確認する

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]