本連載の前回「イノベーション推進組織の活動」では、イノベーションの創出・推進のための組織が担うべき役割を提案しました。今回は、こうした取組みにおいて従来のIT部門が支援すべき活動について考えます。
従来のIT部門がイノベーション推進においてなすべきこととは
デジタルビジネス推進のための組織体制にはいくつかパターンがありますが、IT部門内にイノベーション推進チームを設置した場合、このチーム以外の従来のIT部門はイノベーションに対してどのような役割を果たすべきでしょうか。
また、事業部門や専門組織が主体となってイノベーションを推進しようとする際に、IT部門はこれらの活動に対してどのような支援を提供することができるのでしょう。その際の役割には、「イノベーションを促進するIT環境の整備」と「イノベーション・システムの構築・運用への支援」の2つが期待されていると考えられます(図1)。
図1.従来のIT部門のイノベーション支援(出典:ITR)
イノベーションを促進するIT環境の整備: ITを活用したイノベーションを実現するためには、まずは社内のユーザーの知的活動が円滑に行われることが重要となります。創造的なアイデアが生まれやすい、協調的な作業を行いやすい、データや情報を高度に分析・活用できるといった環境を整えることが求められます。
これらは、これまでもIT部門が提供してきたものですが、それをより一層推し進めることがイノベーションの促進に役立つはずです。ITインフラや基幹業務システムなどの従来から提供していたIT基盤についても、柔軟な外部連携や新規サービスの展開において足かせとならないよう、変化適応力のあるものへと構造改革していくことが重要な任務となるでしょう。
イノベーション・システムの構築・運用への支援: 事業部門や専門組織が推進するイノベーション案件は、早期立ち上げが重要視され、事業の成長に応じて変更や拡張が繰り返されます。また、開始当初はそれほど性能や安定稼働が強く求められませんが、次第に運用要件が厳しくなることも珍しくありません。
この領域は、社内システムとは違って事業活動に直結し、顧客や取引先に影響を及ぼすため、事業が本格化するに従って堅牢で安定的な運用が要求されることとなるためです。本番運用されるようになると、技術標準、セキュリティ、共通化・共有化・統一などによる全体最適化、運用保守性などを考慮する必要が生じ、アーキテクチャ指向や運用視点などIT部門が培ったノウハウが必要となります。