従来型ITとイノベーションを両立できるか
これまで述べたようにイノベーション推進において、従来のIT部門の経験やノウハウが役立つ場面もありますが、基本的なスタンスや意識を大きく転換しなければならない点も多いと言えます。新たに身につけなければならないスキルもあります。
例えば、プロジェクト運営やシステム開発においても、綿密な計画に基づいて確実に遂行するPDCAサイクルではなく、OODAループ(監視:Observe-情勢判断:Orient-意思決定:Decide-行動:Act)を素早く繰り返すことが有効となります。
構築・運用するシステムも、事実を正確に記録することが重要なSoR(Systems of Record)ではなく、SoE(Systems of Engagement)であることが多く、事前の定義よりも変化に対する即応性と柔軟性が重視されます。従来のIT業務を確実に遂行しつつ、イノベーションを推進または支援していくためには、IT部門は二刀流を身につけなければならないということです。
IT部門がイノベーション推進の主体ではなく側面から支援する立場であっても、OODAループやSoEに対応したスキルが求められます。少なくとも一部のIT部門人材がこれに対応できるように、人事ローテーション、育成、採用、意識改革などを図っていくことが望まれます。個々人が二刀流になる必要はなく、役割分担するなどして組織として両面を持つことが重要といえるでしょう。
IT部門のすべての人材がイノベーション推進に適任であるとは言い難いですが、社内のどの部門よりも適性・素養を持つ人材の割合は高いのではないでしょうか。IT部門がイノベーション推進において蚊帳の外とならないためには、まずはどのようなスタンスで臨むのかについて明確な方針を示すことが求められます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。