NTT東日本とNTT西日本は10月17日、これまで検討を進めてきた固定電話網のIP網への移行計画を正式発表した。これに伴うISDNのデジタルデータ通信など一部サービスの終了により、企業間取引通信への影響が懸念されている。
NTT東西によると、固定電話網のIP網への移行は、通話など音声サービスを取り巻く環境の変化と、固定電話網を支える電話交換機の維持の限界がある。
インターネットサービスや携帯電話サービスの普及を背景に、NTT東西にかかわる固定電話での通信回数は、2000年度の約542億回から2016年度は約36億回と約93%減少し、通話時間も約37億時間から約1.1億時間に同97%減少したという。電話交換機は、世界的にメーカーや保守部品などが減少しているといい、NTT東西が現行の水準で交換機の保守を維持できる限界が2025年頃になるという。

NTT東西の固定電話網からIP網への移行イメージ(出典:NTT東日本・NTT西日本の広報資料)
固定電話網のIP網への移行とは、100年以上の歴史を持つ交換機をベースとした固定電話ネットワークの仕組みが、ルータやサーバなどをベースとする仕組みに切り替わることを指す。なお、固定電話への引き込み回線などが同時に切り替えられるわけではなく、ISDNによる通話やキャッチホン、ナンバーディスプレイといった現在提供されている基本的な音声サービスは維持される。
NTT東西では、今回の正式決定を受けてIP網への移行の周知徹底などをスタートした。実際のIP網への移行作業は2024年初頭に着手し、2025年初頭までの約1年をかけて完了させる計画となっている。
この移行によってNTT東西が提供するISDNのデジタル通信サービス「INSネット ディジタル通信モード」(INSネット64/INSネット64・ライト/INSネット1500のサービス名で提供)が、移行作業の始まる2024年1月に終了する。これらのサービスは、個人や家庭での利用は既に少ないものの、企業では受発注などにおけるEDI(電子データ交換)やPOS(販売時点情報管理)、ファクス、決済などのシステムで多数利用されている。
企業ユーザーの中には、長年利用し続けていることで、契約しているサービスや機器の状況を正確に把握していないケースもあるとされる。IP網への移行でユーザーは、システム面だけなく、業務プロセスを含めた対応が必要となり、大きな負担を伴うことが想定される。
NTT東西は、すぐに移行対応ができないユーザー向けに、既存のISDN対応端末からIP網に接続するための収容装置や変換装置を用いた「補完策」の提供を検討している。提供開始は2024年1月の予定だが、あくまで暫定的なものとなるため、基本的にはIP網に対応したシステムへの移行を求めている。また補完策では、現行と同一のサービス品質にはならないとされる。

「INSネット ディジタル通信モード」終了に伴う補完策などの取り組み(出典:NTT東日本・NTT西日本の広報資料)