アラブ首長国連邦(UAE)政府は2016年、内閣に「幸福担当国務大臣」を創設。社会的利益の増大をはじめ、教育や社会インフラ、政府機関サービスなどに対する国民の満足度(幸福度指数)を向上させる政策を国家規模で推進している。同国の内務省が手掛ける、この“幸福事業”の一翼としてブロックチェーン技術が利用されようとしている。
ICT化によるスマート化を推進するドバイは、2020年までに政府機関の公文書をすべてブロックチェーン化する戦略を掲げている
ドバイで10月8日から開催された展示会「GITEX Technology Week 2017」でブロックチェーン技術を利用したセキュアな情報収集分析ソリューションのコンセプトプロトタイプをAvayaは披露した。今回のプロトタイプは、国民の幸福度指数の計測と分析、さらに幸福度指数のフィードバックまでを網羅する。
日本語で「分散型台帳技術」と言われるブロックチェーンは、中央集権的な管理機関を必要とせず、参加者が対等に総合監視、協力をすることで信頼性を維持する技術。適用範囲は金融、流通管理、スマートグリッド、IoTのデータ管理まで幅広い。
今回披露されたコンセプトプロトタイプはこうだ。政府組織や企業は、複数のコールセンターやメール、チャット、SNSなどのチャネルソースから国民(ユーザー)の行政サービスなどに対する満足度データを収集する。
収集方法はさまざまだ。たとえば、UAE政府の場合には、個々の行政サービスに対し、国民が4~5段階で評価する投票システムを構築した。ホテルなどで宿泊後に回答するウェブアンケートのようなものと考えればよいだろう。
Avaya ソリューションアーキテクト Koen Tielens氏
こうしたデータをAvayaの音声コミュニケーションプラットフォーム「Avaya Aura」とアプリ開発プラットフォーム「Avaya Breeze」上で集約、分析する。分析したデータは、ブロックチェーンを使って関係企業や政府組織とやり取りする。ブロックチェーンは、The Linux Foundationの「Hyperledger Fabric」をベースにした「IBM Blockchain」を利用する。同プロトタイプは、英Avanza Solutionsとの協業で構築したものだ。
同プロトタイプを手掛けたAvayaのソリューションアーキテクトであるKoen Tielens氏は、「こうしたデータの分析結果は、プライバシーが確保された、高セキュリティのネットワークでやり取りされなければならない。ブロックチェーンはそれが実現できる技術だ」と説明する。
UAEの道路交通庁(RTA)はAvayaのコンタクトセンターを導入している。画面は聴覚障害者のための手話によるサービスガイダンス。こうしたサービスも幸福事業の一環だ
幸福度指数は、過去の蓄積データと掛け合わせてリアルタイムで計測するという。分析には米Sundown AIの深層学習(ディープラーニング)技術を利用する。得られた分析結果は、ブロックチェーンを使って各組織にフィードバックされ、顧客満足度向上施策を講じるための情報として役立てられる。
UAEの民間企業にとって、顧客満足度の向上は重要なミッションだという。例えば、著しく低いサービス評価を受けた銀行などは、政府の幸福事業担当者から“指導”が入るとのことだ。
Tielens氏は「ブロックチェーン技術はさまざまな分野での活用が期待されているが、実際の活用段階に至っている例は少ない。顧客の満足度指数を精緻、かつリアルタイムで取得、分析することで、幸福事業に貢献するとともに、新たなビジネスの可能性も期待できる」とコメントした。