トランザクションの今昔物語

ウェブの台頭と“空白時代”を経て訪れたSOA回帰の変遷 - (page 3)

石橋正彦

2017-11-07 06:00

まとめ


図12 コンシューマーライゼーションのIT化がもたらしたイノベーションとリスク、出典:サイバー研究所(2017年10月)

 図12は、現在(2005~2017年)をまとめた年表である。2005年以降、SOAなど新しいテクノロジで認証が強化され、テクノロジがもたらすイノベーションもさることながら、コンシューマーを中心としたITの活用が進み、「コンシューマーライゼーションIT」が確認できる。また、前述の表1の2つの事件より、リスクも大きくなっている。

 2005年以降のIT業界トレンドをまとめると、EAIからSOAへ業界のトレンドが変わり、これまでの固定認証からフェデレーションへ、企業間取引でもSAML(Security Assertion Markup Languageで OASYSにより策定)、ADFS(Active Directory Federation Servicesで、マイクロソフト製品)などの考え方が出てきた。また、「法人の企業間取引」として、大学間認証連携(学任)、電子政府(A県などが電子認証をした法人取引)など、規模は小さいものの、国内においてセキュアな企業間取引もできるようになった。さらに社会情勢として、ECなどネットサービス/クラウドの普及、(ブロードバンド前提での)通信の変革(IPベース化など)が起こり、オンライントランザクションの多様化などが確認できる。また、流通BMSなど、ネット受発注、ネット決済などが低価格化することにより、よりオンライントランザクションの低価格化も確認できる。

 一方、12の年表を見て分かることは、国内において、SOAというセミナーや定義があったものの、実際に日本の情報システム部門が好んで実装してきたSOAは、EAIでもなくSOAでもなく、データセンターの基盤統合、サーバの仮想化をメインにした「ESB」(Enterprise Service Bus)ではないだろうか。このESBは、正確にはプログラミングまで落とした、命令文やCALLの話で、次回に触れるAPIを作ってきた10年間になるはずであった。しかし、ESBはデータセンターの基盤統合の話にすり替わった事例が確認でき、国内ではSOAの空白時代であり、SOAを情報システム部門が体感した期間は短かった。

 2005年以降、国内でも「コンシューマー・ビジネス」と「法人の企業間取引」において、「仮想化基盤(テクノロジ)」がイノベーションをもたらしたことは確認できる。さらに、日本の情報システム部門は、特に海外の「コンシューマー・ビジネス」の認証部分やセキュリティの強化において、彼らの「基盤」の考え方ではフェデレーションなどをうまく使いこなしている現状を理解し始めた。このことで日本企業のSOA回帰がようやく始まり、今後訪れるAPIの準備(下地)ができつつあると考えられる。

 例えば2010年当時、仮想化環境のコーディング規約(APIと規定されたかは別にして、スクリプト集)がいくつもできるようになった。国内では、2010年当時、(クラウドを)データセンター事業者やその担当者がIaaS/PasSとして取り扱い始め、「当社のクラウドは堅牢である」「見学も可能である」というようなイメージを根付けてしまった。この間、海外では多くのAPIをサービスメニュー化し、「クラウドの優劣=APIの品ぞろえ」という方向に大きく舵取りをした。

 次回は、このAPIが今後の日本のIT部門にどのようなイノベーションをもたらすかについて考察する。

著者:石橋正彦(いしばし まさひこ)
サイバー研究所(Cyber lab)アナリスト
日本ユニバック(現日本ユニシス)、VERITAS Software(現Veritas Technologies)、BearingPoint(現PwC)、Gartner、大宣システムサービスを経て現職。都市銀行を中心に、SWIFTネットワーク、カストディー、人事システムの開発や災害対策を経て、セキュリティ監査人、IoT講師、アナリストを専門とする。

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