トランザクションの今昔物語

APIが作り出す2030年に向けた企業間取引の未来像 - (page 3)

石橋正彦

2017-11-14 06:00

 次に、金融以外の製造業ではどうであろうか。自動車分野を例にとると、分かりやすい。

近未来の自動車''
図15 近未来の自動車(Connectedカーシステム構成)の全体構成「自動車API」の標準化が急がれる、出典:サイバー研究所(2017年10月)

 現在は、Connectedカーの企画と自動車内部のOSやソフトウェアの基盤作りの時代である。図15の近未来の自動車(Connectedカーシステム構成)の全体構成について、現時点で自動車会社間や関連事業体間での話合いは、まだ少ないと想定される。まずはトヨタや日産、ホンダなど各社が個別にConnectedカーシステムの構成を描き、システムの試作が急がれる。しかし各社の実装が一段落し、トータルコストが算出できるようになれば、利用者にシステムの構築/運用費用を上乗せするのではなく、できる限り集約を繰り返した「自動車API」が次の標準となるであろう。このような業界内でのシステムのあり方を中心にした話し合いが必要となり、この話し合いは、利便性や処理速度の改善も望ましいが、「セキュリティ=安全、無事故」をいくらの投資で維持するか、採算で見ていく方が望ましい。

 近未来のConnectedカーは、通信キャリアと密接になる(車1台が1台のスマートフォンである)。個人用スマートフォンの料金を滞納すれば、通信会社のサービスが使えない。しかしConnectedカーの場合は、車検と同じように、前払い方式になるだろう。そのため、「月初は毎回車のエンジンがかからないね」「あ、先月は携帯料金未納だった」という会話にはならないと思われる。このあたりは、「レクサスG-Linkの通信料金(インターネット通信料金)を車検時に2年分前払い」と同じコンセプトである。

 また、セキュリティ面の近未来では、「コンシューマーライゼーションのリスクベース」が始まると考えられる。コンシューマー向けのバイオメトリクスなどの認証が先行し、その本人かどうか、2回目の認証に本人のクセを使う。下の図16では、iPhoneなどの画面をタッチする強さ、速さをセンサやジャイロで学習する。これと同じように、車のアクセルとブレーキ、ウインカーの癖を学習する本人確認方式が登場するであろう。

近未来(2020~2030年)の認証''
図16 近未来(2020~2030年)の認証ではバイオメトリクスの行動様式をビックデータで保存し続け、AIで個人のクセを特定する次世代リスクベース認証が誕生するだろう、出典:サイバー研究所(2017年10月)

 さらに、「コンシューマーライゼーションのリスクベース」では、総合得点として、リスク値がある一定以上に達すると強制終了させる。例えば、アクセル・ペダルの踏み方が荒い、ブレーキが遅いリスクの場合、アナウンスで「3分以内に車を強制停止するため、速やかに路肩に寄せなさい」などのリスクベースが普及するかもしれない。家電のIoTを応用し、「昨日見ていたドラマの登場人物を全てクリックしなさい」など、タイムリーで、本人が希望した認証を利用するなど、近未来のコンシューマー向けの認証の登場が期待される。

 近未来は、「金融API」や「自動車API」など業界システムの「共同利用=集約化」がエコシステムを作り上げるきっかけとなる。最初から採算やコストを前面に出したくはないが、筆者が講師をしているIoTのビジネス・モデルは、まさに採算である。「採算は取れないが、IoTとして利便性が良く、きっと利用者も多いはず。当社のAIでの宣伝にもなる」という広報やマーケッターのロジックは、IoTを10年レンジのシステムとして考えた場合に使えない。このような問答やロジックでシステムの「仕分け」に走らず、本連載でこれまでに述べた以下の図17のフローで検討していただきたい。

(ロジックとテクノロジのフロー)60年の変遷''
図17 (ロジックとテクノロジのフロー)60年の変遷、出典:サイバー研究所(2017年10月)

 システムエンジニアはロジックからシステムを作るが、ロジック自体はIT部門が作ったシナリオであり、その時の要求や評価を端的に表現している。一方、テクノロジは「生まれる」よりも「ニーズから最終的に残った技術」、あるいは「時代のニーズを素直に受け入れ自分を適合させる(adaptiveテクノロジ)」とした方がしっくり来る。イノベーションは、その時代やその時期を正確にアナリシス(分析)することから始まる。「勢い=広告=セミナー」はまずは置いておいて、この60年間で何が起き、今後何が出るといいのかを広く見通すことが大切である。

著者:石橋正彦(いしばし まさひこ)
サイバー研究所(Cyber lab)アナリスト
日本ユニバック(現日本ユニシス)、VERITAS Software(現Veritas Technologies)、BearingPoint(現PwC)、Gartner、大宣システムサービスを経て現職。都市銀行を中心に、SWIFTネットワーク、カストディー、人事システムの開発や災害対策を経て、セキュリティ監査人、IoT講師、アナリストを専門とする。

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