BSA(The Software Alliance)は、ソフトウェアベンダーによる業界団体だ。米IBM、米Oracle、米Microsoftといった、エンタープライズ(企業情報システム)を対象とするソフトウェアを開発・提供しているベンダーが構成員だ。
ベンダーが注力する産業分野とビジネスモデルは、時間とともに変わる。SaaSのような提供形態も一般化した。人工知能(AI)やブロックチェーンといった新しい技術も出てきた。これに応じて、BSAが政策面で注力する分野も変わる。
BSAが現在注力している分野の1つが、セキュリティ分野だ。セキュリティが低い製品サービスは、使ってもらえないからだ。例えば、ユーザー企業がクラウドを使ってくれる理由の1つは、セキュリティの強さにある。クラウドなら、脆弱性パッチも自動的にアップデートされる。

BSAでGlobal Policy部門のVice Presidentを務めるAaron Cooper氏
メンバー企業が提供しているセキュリティサービスの一部は、サイバー攻撃の脅威情報などのように、世界中からデータを集めてきて、これを分析することによって成り立っている。こうした製品サービスを成り立たせるための前提として、国境を越えてデータを移転できる状態を維持しなければならない。
BSAは、業界団体として、サイバーセキュリティの保護に必要な法制度を整えることに注力している。実際に、各国の政府などに働きかけていると、BSAでGlobal Policy部門のVice Presidentを務めるAaron Cooper氏は説明する。
例えば、米国のアメリカ合衆国通商代表部(USTR)や、日本の経済産業省(METI)などとも話をしているという。各国のサイバーセキュリティの政策が一覧表で俯瞰できるツールとして、「サイバーセキュリティダッシュボード」もリリースしている。
2017年10月3日には、こうした政策活動の1つとして、BSAとしては初めてとなる、サイバーセキュリティ分野のアジェンダ『A Cybersecurity Agenda for the Connected Age』(サイバーセキュリティアジェンダ)を公開した。
セキュリティを担保するための5つの議題
サイバーセキュリティアジェンダでは、セキュリティを担保するための基本的な考え方と方法を記している。政策面で優先すべき議題として、以下の5つの項目を掲げている。
(1)Promote a Secure Software Ecosystem
(安全なソフトウェアエコシステムを推進する)
(2)Create a Stronger Government Approach to Cybersecurity
(政府によるサイバーセキュリティへのアプローチを強化する)
(3)Pursue International Consensus for Cybersecurity Action
(サイバーセキュリティ活動のための国際的なコンセンサスを追求する)
(4)Develop a 21st Century Cybersecurity Workforce
(21世紀のサイバーセキュリティ人材を育成する)
(5)Advance Cybersecurity through Digital Transformation
(デジタル変革によって高度なサイバーセキュリティを実現する)
ソフトウェア業界が主導してセキュリティの標準を作る
サイバーセキュリティアジェンダの各項目に関連して、Cooper氏はいくつかの考え方を提示した。
まず、セキュリティのスタンダード(標準)は、ソフトウェア業界が牽引するべきだとCooper氏は主張する。「業界が牽引する標準ならうまくいく。規制などと比べて、世の中の変化に対して素早く対応できる」(Cooper氏)
また、規制や標準の基準は結果ベースであるべきだとCooper氏は主張する。「データの保護を目的として捉えるべきであって、目的を達成するための手段まで取り決めてはならない」(Cooper氏)
また、標準は国際的にコンセンサスを得られたものでなければならない。「ある特定の国にとって特異的なものであってはならない」(Cooper氏)
次世代のセキュリティの専門家を育てていくことも重要だとCooper氏は言う。「教育は極めて重要だ」(Cooper氏)
新たなリスクに対応していくためには、新しいテクノロジを活用していかなければならない。例えば、脅威を検知するためにAIを活用するといった具合だ。「サイバー攻撃者に遅れをとってはならない」(Cooper氏)