「見える化」の目的とは何か――。このように問うのは、大東印刷工業 第一営業部 業務課 課長の中島章裕氏。端的に言えば、効率の向上や経費の削減によって、利益を増やすことにある。
印刷業界は縮小傾向にある。経済産業省の工業統計調査によると、製造品出荷額は1997年に8兆5972億円あったものが、リーマンショックや東日本大震災を経て、2014年には5兆3898億円にまで落ち込んでいる。3兆2100億円(37.3%)の減少である。
こうした厳しい状況の中で、総合印刷会社の大東印刷工業は、「FileMaker」プラットフォームを使って業務の見える化を進めた。社内の無駄を減らし利益を生み出す体質を作り上げていった。
大東印刷工業の中島章裕氏
「手書きがイヤだ」から始まった紙の電子化
同社の見える化の歩みは1997年までさかのぼる。当時は印刷物の確認事項を5枚複写の仕様書にまとめて、案件ごとに管理していた。送り状伝票や見積明細書、工程管理、日報も全て手書きで作業していた。繁忙期になると、1日に数百枚の送り状伝票や数十本の見積明細書を営業担当者が自ら記入しないといけなかったという。
こうした「成果に結び付かない、ほとんど無駄な作業」(中島氏)を減らすために、紙書類の電子化に着手した。仕様書の第一号は1998年9月にFileMakerで作成した。ここからさらに一歩進み、仕入情報をデータ化して見積明細書とひも付けることで、売上から仕入を引いた「加工高」も算出できるようにした。「営業担当者によって仕入の値段が違うといった問題も顕在化した」(中島氏)
このようにして、オンプレミスのFileMaker Server上に経営情報システム(MIS)を構築。全社で利用している。しかし、手書きのデータ化によって営業事務や工程管理を効率化しても、この段階では経常利益には貢献しなかったという。
FileMakerで構築した経営情報システム
単品利益管理で経常利益を向上
そこで次に目を付けたのが、売上から仕入と社内コストを差し引いた「粗利益高」の見える化だ。日報と見積明細書をひも付けることで社内コストを算出できるようにし、売上管理表で利益管理するようにした。工程別に収支の見える化が可能になり、損益計算の適正化につながった。
「見積明細と仕様書、仕入情報、日報を売上管理表でひも付けることで粗利益を可視化した。工程別に収支を判別できるようにし、赤字案件が全社で分かるようになった」と中島氏は説明し、単品利益管理が可能になった結果、収益改善につながったとした。全社員が単品利益を確認することで、加工率や粗利益率を改善し、工程別の赤字を抑えるにはどうすればいいかを考えるようになった。
大東印刷工業の見える化の特徴