日本マイクロソフトは11月8日から2日間、今年発表した最新技術を網羅的に紹介するイベント「Microsoft Tech Summit 2017」を都内のホテルで開催している。本稿では代表取締役社長の平野拓也氏らが登壇した基調講演の様子を紹介する。
Microsoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏
最初に登壇したのは、米Microsoft エグゼクティブバイスプレジデント兼プレジデント グローバルセールス マーケティング&オペレーションのJean-Philippe Courtois氏。同社が使命として「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」を掲げる理由に、「全てのビジネスプロセスにおいてデジタル技術が浸透している。当社が大きく変化したのは(最高経営責任者のSatya Nadella氏が就任した)3年前。自社にトランスフォーメーション(変革)をもたらすためには、企業の使命や中核となる自我を文化として根付かせた上で、いなくなると世界が困るような存在に変化しなければならない」と説明する。
そして、クラウドを活用する「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」を念頭に、ユーザー行動に即した「マルチデバイス・マルチセンス」「人工知能(AI)」「インテリジェントエッジ」という3つの技術を融合し、「デジタルの世界を作り上げていく」と、同社の方向性を示した。
三菱ふそうトラック・バス Head of IT Trucks Asia FUSO&DICV CIOのLutz Beck氏
Courtois氏はゲストとして、三菱ふそうトラック・バス Head of IT Trucks Asia FUSO&DICV CIOのLutz Beck氏を招き、同社のデジタル変革について質問。Beck氏は、「当社は『新しい石油』となるデータを収集し、トラックビジネスを再発明している。その結果として自動車業界が変化し、世界が変わる」と説明する。
同社はAIを活用したチャットボットシステムの導入や、運行管理を行う「Truckonnect」、Microsoft HoloLensを用いた車両設計開発やメンテナンスシステムの刷新を目指している。このように自社の変革を行う理由として、「1つは顧客が全てのものとつながることを求めている。もう1つは競争の過熱化だ。大手企業が自動車産業に参入し始めてる現状を踏まえると、創業85年の歴史と業界を知り尽くしている我々が(新ビジネスを)再発明しなければならない」と意義を語った。同社は伝統的な製造業に類するが、現在はチーム構成を変更し、15カ国にわたる国際的な労働形態で取り組んでいるという。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長の伊藤かつら氏
次に登壇した日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長 伊藤かつら氏は、同社の提唱する「モダンワークプレイス」について触れ、これを「デジタル変革の働き方改革版」だと説明した。昨今はあらゆる企業が優秀な人材を呼び集めるために、労働環境の見直しや企業内文化作りに苦心惨憺(くしんさんたん)しているが、個人が想像力を最大限発揮し、異なる才能を持った人々が集まって、スポーツのようにゴールへ進むのが新しい働き方を提供するのが「Microsoft 365」であると自社製品をアピールする。
日本マイクロソフトは、資料作成やプロジェクトの進捗状況、会議など日々の労働活動をデータアセットとしてデジタル化した「Microsoft Graph」を製品やサービスで活用しているが、先頃はビジネスSNSのLinkedInと連携し、多様な働き方を実現可能と強調している。伊藤氏によれば、一見するとSoE(System of Engagement)やSoR(System of Record)に類似するが、同社では「SoI」(System of Intelligence)と呼称する。
Bing経由でMicrosoft Graphを利用し、社内メンバーの情報をWeb検索する「Bing for business」。ネットワークを識別するため社外にデータが漏れることはない
今後は、「日々の活動や生産物がデータ化し、デジタル変革が進むほど中心には人がいる」(伊藤氏)という流れが加速していくだろう。さらに複合現実(MR)についても、28億人に及ぶ世界の労働者がMRを活用するシナリオを想定し、「ビジネスの世界こそMRが与えるインパクトは大きい」(伊藤氏)と語る。ショップの店頭や工場のライン担当者などを含むファースト・ライン・ワーカーは17億人、社内の事務や開発担当者となるインフォメーションワーカーは11億人。特に前者は製造業や建築、ヘルスケアといった多様な業種で、遠隔支援や空間設計などMRデバイスで労働者の能力をさらに引き出せるという。
小柳建設の「Holostruction」を用いたデモンストレーション。建設現場のホログラムに建機を並べて円滑に作業が進むのか、実作業時のシミュレーションを行っていた