データ科学を金融サービスや保険といった業界でのイノベーションに活用する方法について、その道の専門家ら2名が歴史的なコンテキストを交えながら解説してくれた。業界におけるリーダーからの有用かつ実用的なアドバイスとなる。
データ科学は世の中に広く浸透しており、企業のイノベーション力や競争力をもたらす重要なイネーブラーになりつつある。こうした重要性を考えた場合、データ科学の今後の方向性や価値を考察するうえで、そのコンテキストを検証する価値があるはずだ。
企業幹部にとって、データ科学に関する最大の課題は以下の3つの事項に起因していると筆者は考えている。
- データ科学や機械学習で実現できることのパワーやその影響について企業幹部らが常に理解しているとは限らない。ビジネスモデルや日々の運用、顧客への影響は絶大だ。
- 機械学習に利用できるデータが不足している。機械学習は、過去のデータや他のデータがなければほとんど価値をもたらせない。有用なデータの集積は相当の費用や時間を要する場合もある。
- ユーザーや顧客にもたらす価値を最大化できるモデルの作成や分析の準備に必要な人材やリソースが不足している。データ科学を有効に利用するには、従来型の分析とは種類の異なる考え方が必要であり、企業文化の変化さえも必要となるため、成熟した組織にとって迅速な対応は容易ではない。
筆者は2人の専門家に話を聞き、これらの問題を考察するとともに、金融サービス業界や保険業界におけるデータ科学について語ってもらった。
今回話を聞いたのは以下の2人だ。
- 大手保険会社のAIGで最高科学責任者(CSO)を務めた経験があり、現在はBoston Consulting Group(BCG)のシニアエグゼクティブアドバイザーであるMurli Buluswar氏
- The Data Incubatorの最高経営責任者(CEO)であり、Foursquareの元データ科学者でもあるTianhui Michael Li氏
——データ科学は保険業界のどういった部分に適用されているのでしょうか?
Buluswar氏 保険業界の中心にある課題は、金融サービス部門の抱えている一部の課題とよく似ています。保険業界では保険商品の販売が成立した時点における該当商品のコストを予測しようとしています。将来的な利益を確保するうえで、正確な予測は絶対に必要となります。そういった核心的理解を得るためのものはどのようなものであってもすべて、競争上の優位性をもたらすのです。
ここで課題を俯瞰してみると、人間の知性を強化し、より優れた意思決定を行えるようにするというデータ科学と機械学習の役割においては、保険業界とその他の業界の間で数多くの類似点があります。より構造化され、粒度が細かく、洗練され、整合性のある意思決定をもたらすことは、セールスやマーケティングの場だけでなく、価格付けや、保険の引き受け、保険金支払い処理の場において、保険会社が顧客への約束を履行するうえで重要な役割を担うのです。