パイロットと整備士の育成課題に「複合現実」を利用--JALとエアバス - 13/18

國谷武史 (編集部)

2017-11-14 17:30

 日本航空(JAL)とフランスのAirbusは11月14日、「複合現実」(Mixed Reality:MR)技術を用いた航空機パイロットと整備士向けの訓練用アプリケーションを共同開発したと発表した。実機を使った訓練機会の減少などが課題となっており、両社は将来の実用化に道筋をつけることで課題解決を目指す。

A350型機の3D
A350型機の3D CADデータから精巧なホログラフィックを作成している

 共同開発した訓練用アプリケーションは、Microsoftのヘッドマウントディスプレイ型MRデバイス「HoloLens」を使って、Airbusが製造する航空機「A350 XWB」型のコックピットやドアの3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)を用いた操作訓練ができるもの。パイロット向けの訓練シナリオでは、コックピット内の機器や計器を操作してエンジンを始動するまでの手順を確認する。整備士向けのシナリオでは、航空機の外部や内部からドアを開閉する手順を確認できる。

 JALは、AirbusにA350 XWBを56機(オプションを含む)発注しており、2019年以降に順次就航させる計画。開発した訓練用アプリケーションは試作段階だが、最終評価ではパイロットや整備士から高い評価を得られたといい、A350 XWBの就航前訓練などへの活用が期待されるという。

実機による訓練機会が減少

 JALは、HoloLensを使った訓練用アプリケーションの開発を2015年から進める。JALグループの整備部門を担当する海老名巌氏によると、近年は航空機技術の進展から信頼性が大幅に向上したことで、整備士が実際に航空機に触れて整備や保守などの作業をする機会が減少しつつある。「安全性や稼働率の観点では歓迎すべきことだが、一方で整備士の技量や知識の向上につながる機会が限られており、MRに大きく期待している」と話す。

 特に若手のパイロットや整備士にとって、研修などは座学が中心であるものの、実務につながる技量や知識を獲得する上で、シミュレーターや実際の機材に触れる機会が大きな効果をもたらす。しかし、シミュレーターであっても大規模な設備であることから実際に触れる機会はやはり限られるという。

 そこでHoloLensに注目し、時間や場所、設備規模といった制約にとらわれることなく訓練生に実感の伴う訓練機会を提供するアプリケーションの開発に取り組み始めた。訓練用コンテンツでは、仮想現実(VR)技術なども検討したが、現実の視界に3DCGを重ね合わせることでユーザーがVR以上に実感を得られるMRを選択した。

 当初のアプリケーション開発では、同社が保有する実際の機材のコックピットやエンジンを撮影し、Microsoftと共同で数カ月におよぶ3DCG化や訓練シナリオに基づくアニメーションの制作、訓練機能の開発などを手作業で行った。ただ、実機の撮影データだけでは訓練シーンの再現性などに限界があり、その他機材の訓練用コンテンツを制作するにもリソースを確保しづらいなど、実用化に課題があった。

 JALとAirbusは、ともに以前からHoloLensの開発プログラムに参加しており、今回の共同開発では、MR技術を航空機の製造から運用まで幅広く取り入れたいとするAirbus側と、訓練用アプリケーションの実用化を目指すJAL側の思惑が一致した格好だ。

 AirbusからJALにA350 XWBの3D CADデータなどが提供されたことで、アプリケーションの開発期間が数週間ほどに短縮し、訓練シナリオの精度も大幅に向上したという。JALもAirbusに対して実際のユーザーとなるパイロットや整備士らの評価や意見といった情報を提供して開発に協力。これによって訓練用アプリケーションの実用化に道が開けた。

エンジン始動訓練シナリオのデモ''
エンジン始動訓練シナリオのデモ
ドア操作のシナリオ''
ドア操作のシナリオは機体の外側と内側の2つがあり、整備士や客室乗務員の緊急脱出訓練にも使用できる

 エアバス・ジャパン 代表取締役社長のStephane Ginoux氏は、「MRアプリケーションによる効率的な運用ソリューションを航空会社に提供できるだけなく、航空機の研究開発や設計製造、整備に至る当社のビジネス全体にデジタル変革をもたらし、より優れた生産性の実現に寄与するだろう」と話す。

 MRに取り組むにあたってAirbusは、(1)MRの価値を理解し、取り組む意義を決めて専門性を体得する、(2)MRの取り組みを実行するためのフレームワークを開発し、セキュリティや信頼性を確保して必要なプロセスを確立する、(3)「ホログラフィックアカデミー」を設立して中核コンセプトの創造と複数チームによる開発スキームを広げる――という3つのアプローチを取り入れた。現在は(3)のアプローチを広げている段階にあり、Airbus内部だけで既に250以上のMR活用事例が誕生しているという。

 JALとAirbusは、今回のアプリケーションの試作を1つのマイルストーンと位置付け、今後は実用化に向けた検討に入りたいと説明している。

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