データとAIを中心とした第4次産業革命が始まっている。日本企業がこの波に乗るには「カルチャーの変化」が不可避だーー11月初め、Salesforce.comの最高執行責任者(COO)Keith Block氏が、自社イベント「Dreamforce 2017」で助言した。
Dreamforceの会期中、Keith氏は顧客であるエレベーターのKoneの最高経営責任者(CEO)兼プレジデント、Henrik Ehrnrooth氏、PwCでグローバルアドバイザリーリーダーを務めるMiles Everson氏とパネルディスカッションに臨んだ。テーマは、デジタルトランスフォーメーションだ。
Koneの最高経営責任者(CEO)兼プレジデント、Henrik Ehrnrooth氏
メンテナンス予算に逼迫されるイノベーション
Keith氏は冒頭、第4次産業革命について「始まったばかり。どのようなものか、規模感も含めてまだ誰にも分からない」と述べる。IoTと人工知能(AI)に集約され、「深いレベルで変化が起こるだろう」としながら、「社会も個人も、どうやって受け入れるのかでもがいている状態」という。
PwCのEverson氏はコンサルタントの立場から、「1300社以上のCEOを対象としたイノベーションの調査では、”イノベーションは前進のために不可欠だ”と見ているCEOはわずか23%だった」と報告する。ただし、イノベーション(新しい技術)の上で何をするのかが重要であり、それとオペレーションとを結びつけることで、全く新しいことやこれまでとは違うことを作るというイノベーション(革新)が生まれるとした。その観点で見ると取り組みは進んでるという。
一方で、既存の企業はレガシーシステムのメンテナンスにIT予算の多くを割いている状態だ。イノベーションになかなか投資できない。Keith氏は予算の9割がレガシーのメンテナンスという金融・財務分野において、先進国を中心に共通した課題として2つを挙げた。
- モバイルへの対応:バンキングトランザクションの3割がモバイル端末で起こっており、銀行はスマートフォンやソーシャルメディアを駆使する消費者のニーズに応えなければならない
- Brexit、Trump政権誕生などの保護主義にシフトする政治動向
Salesforce.comの最高執行責任者(COO)Keith Block氏
「信じられないレベルのプレッシャーに直面している。銀行に限らず全ての企業で、前向き思考のシニアエグゼクティブがトランスフォーメーションを率いる必要がある」とBlock氏は全体のトレンドを説明した。
日本のアキレス腱は過去の成功
Keith氏は中でも、3週間前に訪問したという日本市場とデジタルトランスフォーメーションが進まない関係についてもコメントした。
日本でたくさんのCEOと話をしたというKeith氏は、過去の成功につながった文化が足かせになっていると分析する。「日本文化はすばらしく、デザインのカルチャーをもつ。日本はデザインの道で完成に到達し、これが日本の成功につながった。だが今これがアキレス腱になっている。なぜなら何十年とやってきたことを変えるのは難しい」とKeith氏。初心に戻って新しいことを試して学ぶカルチャーが再び必要だという。
PwCでグローバルアドバイザリーリーダーを務めるMiles Everson氏
日本だけでなく、エンジニアカルチャーで国をなしたというドイツも同じような状況としながら、「将来に移るのは難しい。企業、そして国のカルチャーを変えるのは簡単なことではない」と述べた。
PwCのEverson氏は、失うものが多いほどリスクを回避しようとする「プロスペクト理論」を「ポートフォリオ理論」と組み合わせ、既存の大企業は知らず識らずのうちに「ポテンシャルを最小化している」と指摘した。「客観的に見ることができない」とEverson氏。やはり文化レベルの問題だとした。