ギター購入者9割が断念、継続の道を拓くサブスクリプションモデル新版を発表--Zuora

阿久津良和

2017-11-17 12:21

 Zuora Japanは11月16日、サブスクリプション・エコノミー(購読型経済)でビジネスを成功させるための分析基盤「Zuora Insights」を都内で発表した。同社代表取締役社長 桑野順一郎氏は、「技術革新による新サービスを成功させるには、サブスクリプションビジネスに最適化したプラットフォームが欠かせない。製品販売型ビジネスと比べて約9倍の速度で成長するサブスクリプションビジネスに注力しない企業は、成長機会を失うに等しい」と述べている。

 Zuora Insightsは契約数や顧客維持率、解約率といったサブスクリプション指標を可視化し、サブスクリプションビジネスに必要な情報を自動算出するソリューションだ。可視化した情報はダッシュボードから閲覧し、平均顧客収益や顧客生涯価値などを用いたフィルターリングで、焦点を当てるべき顧客を浮き彫りにする。また、会計指数と各データを融合することで、顧客を分類し、収益機会を明確化する機能も併せ持つ。


「Zuora Insights」のデモンストレーション。顧客データの平均収益や解約率などをグラフ化し、ビジネスの全体図を可視化する

 既存企業やサブスクリプションビジネスを今後推進する企業に対してZuora Insightsは、「企業と顧客の最適な関係性を構築するために、顧客価値の可視化を取り込むべき」(Zuora Founder&CEO, Tien Tzuo氏)だと、その重要性を語る。Zuora Japanは、日本にApple Musicが上陸した2015年を"サブスクリプション元年"と称している。この2年間を振り返るとネットフリックスやAmazon Musicなど、サブスクリプション型コンテンツ配信サービスが大きく広まった。もちろんサブスクリプションビジネスは一般消費者に限らず、エンタープライズ分野でもMicrosoft Office 365や、Adobe Creative Cloudといったソフトウェアのサブスクリプション化が加速し、昨今では自動車や飲食分野にも拡大している。


Zuora Founder&CEO, Tien Tzuo氏

 例えばポルシェは月額2000~3000ドル程度で車両の登録代金から保険、税金、保守費用を含めたサブスクリプションサービスを提供し、フォードもカーシェアリングや駐車場予約といったサービス提供を行うようになった。このように定期購読型で使用料を支払うサブスクリプションビジネスに取り組む企業は、一般消費者やエンタープライズといった垣根を持たず、新たなビジネスモデルへの変革を自ら起こそうとしている。その1例が楽器で有名なフェンダーだ。

 「彼らはギター購入者の9割が3カ月以内に楽器の練習を断念しているという情報を基に、練習動画をストリーミング配信し、顧客に『3カ月の壁』を乗り越えてもらおうと努力している。これらのサービスをサブスクリプションビジネスとして実施し、合わせて生涯にわたって楽器を買い続けてもらうようなビジネスモデルに移行した」(桑野氏)。


Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏

 サブスクリプションビジネスで重要なのが、顧客体験の収集・分析結果だ。「フェンダーは顧客と直接つながることで、利用者の技術レベルや好みのジャンルなど、すべてを把握した。顧客を知ることで需要を理解し、その上でサービスを提供する。この関係性がサブスクリプションビジネスの特徴だ」(桑野氏)。

 既にZuora Japanは自社顧客としてコマツやリコー、横河電気などが新たに加わり、ここ1年の売り上げは244%の成長を見せる。また、新たな販売パートナーとして富士通と協業し、サブスクリプションビジネスのコンサルティング業務として電通・電通デジタル。決済代行サービスとしてソニーペイメントサービスと協業を結んだ。

 Tzuo氏もグローバル企業のサブスクリプションビジネス事例を紹介しながら、あらゆる業界で従来型ビジネスは横ばいだが、サブスクリプションビジネス企業はS&P 500に名を連ねる企業と比較して、約9倍の速度で成長していると説明する。「新ビジネスは『サブスクリプション・エコノミーからしか生まれない』と述べても過言ではない」(Tzuo氏)という。

 サブスクリプションビジネスを実現する"サブスクリプション・エコノミー"の概要は次のとおりだ。従来型となる製品販売型ビジネスは、初めに製品ありき。その上で多様なチャネルと通じて顧客に提供する形だが、サブスクリプション・エコノミーは中心にサブスクライバー(契約顧客)がいる。彼らがサービスから得られる体験や顧客需要をすくい上げる形でサービスを改良し、顧客に提供する仕組みだという。

 「AppleはiPhoneの販売台数ではなく、Apple IDの数に注目して収益化モデルを構築している。ID数を元に数年ごとに買い換えるデバイス台数やコンテンツ購入数を換算するなど、顧客との関係から収益化を実現するのが近代的な考え方」(Tzuo氏)だとビジネスモデルの根底から変えるべきだと強調した。そのために企業は顧客の需要や属性といった情報を収集・分析し、顧客体験を常に高めるソリューションを用意しなければならないという。


GE Digital Head of Product Management Predix Platform, Gytis Barzdukas氏

 既にサブスクリプションビジネスに移行するGEは、エンジンなどの産業用機器に特化したIoTプラットフォーム「Predix」を運用している。設備や機器の資産効率性を高めて、停止時間を最小限にとどめる「アセットパフォーマンスの管理が重要。一例では生産効率が約10%改善した。我々の顧客である電力供給企業は『ガスタービンではなく成果を顧客に提供する』」という(GE Digital Head of Product Management Predix Platform, Gytis Barzdukas氏)と、自社のアプローチと各業種が目の前にする変革に対して、サブスクリプションビジネスが重要であると述べた。

 「ERP(統合基幹業務システム)は在庫管理や供給連鎖の最適化では素晴らしいが、サブスクリプションビジネスでは必要がないシステムとなる。企業は新しい能力を持ち、顧客の利益に合わせた柔軟な姿勢が必要」(Tzuo氏)だ。

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