マイクロソフトが進めるオープンソース戦略--独自路線からの転換追求

藤本和彦 (編集部)

2017-11-20 14:10

 Microsoftのクラウドやテクノロジを推し進めるだけでは、オープンソースを利用する企業やパートナー、開発者に十分な価値を提供できない――。このような危機感から、同社ではオープンソースへの取り組みを加速させている。

 IoT(モノのインターネット)をはじめとするデジタル変革の中核技術として、オープンソースソフトウェア(OSS)の役割が増している。そうした背景も同社のオープンソース戦略を後押ししている。

デジタル変革でのオープンソースの役割
デジタル変革でのオープンソースの役割

 日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズ本部 業務執行役員 本部長の浅野智氏によると、実際にパブリッククラウド「Microsoft Azure」で稼働する仮想マシンの40%超はLinuxとなっている。「この1年で10~20ポイント増やすことが目標だ」(同)

 人工知能(AI)サービスも注力分野の一つとなっている。「Microsoft Cognitive Services」では、「Easy」「Open&Flexible」「Tested」という3つの開発指標を掲げている。「パブリックなAPIを使ってAI技術を活用できる環境を用意し、そのために必要なソースコードなどは全てGitHubに公開している。そして、PythonやRといったオープンな言語で書くことができる」とした。

 Microsoftのオープンソースに対するアプローチは、「Enable」「Integrate」「Release」「Contribute」という大きく4つの特徴で表現される。

 コンテナ技術のDockerやプログラミング言語のPHPなどを使い、既存のアプリケーション資産をクラウドに移行しやすい環境を整える。そして、クラウド環境において分散処理フレームワークApeche Hadoopやコンテナ技術などを使ってアジャイルに開発できる統合的なPaaS環境を準備していく。

 「SQL Server 2017」ではLinuxとDockerに対応した。Microsoftの製品リリースの中にオープンソースのコンポーネントを組み込んでいくことを示した例の1つだと言える。また、こうした一連の取り組みから作り出されるアプリケーションやサンプルコードなどを積極的に外部公開していく。実際、「GitHubでOSSに開発貢献した企業でナンバーワンになっている」(浅野氏)

GitHubの開発貢献ランキング

 全社規模でのオープンソースの利用実態も明らかにされた。現在、9700のオープンソースコンポーネントが社内で使われており、6000人がオープンソース関連プロジェクトに従事している。これまでに3000のオープンソースプロジェクトがリリースされたという。

 Azure PaaSでのOSS対応も進めている。MySQLから派生したオープンソースのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)「MariaDB」をフルマネージドサービスで利用できる「Azure Database for MariaDB」や、NoSQL DBサービス「Azure Cosmos DB」でのCassandra対応、Apache Sparkベースの分析基盤「Azure Databricks」を立て続けに発表している。

 Azureを活用する企業として2社の事例が紹介された。

 1社は、経費精算サービス「Staple」を展開するクラウドキャスト。少人数の開発チームで新機能の開発を強化したり、月末に集中する経費精算の処理に対応したりといった課題があった。

 同社ではこれに対し、自動スケールと負荷分散などの機能が組み込まれた「Web Apps」を利用。既存のRubyアプリについては、「Web App for Containers」で移行した。これにより、アクセス集中によるビジネス機会の損失を最小化し、リソース配置を最適化することで新機能の開発を高速化したという。

日本マイクロソフト 浅野智氏
日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズ本部 業務執行役員 本部長 浅野智氏

 もう1社のアクアビットスパイラルズは、NFCタグを組み込んだ「スマートプレート」を展開する企業。プレートにかざしたNFC対応の端末へさまざまな情報を提供する仕組みだ。

 キャンペーン実施で突発的に発生する高トラフィックに対応が必要だったほか、「Azure Machine Learning(ML)」を使ったユーザー行動のパターン分析処理を効率化させたかったという。

 Web Appsと「Azure Database for MySQL」を利用し、既存のPHPアプリはWeb App for Containersで移行した。自動スケール機能によってビジネス機会の拡大が可能になった。クラウド利用料の削減にも成功した。Azure MLの利用を効率化し、新機能の開発も高速化した。

 日本でのOSSへの取り組みについては、20人体制の専任部隊を組織している点や、OSSの各領域に対してのスペシャリストの育成(現在50人程度)、ユーザーコミュニティーへのナレッジの展開などを挙げた。年間200回以上のイベントやセミナー、トレーニングも実施していくとしている。

 「デジタル変革に取り組んでいる開発者やパートナーは、新しいテクノロジに非常に多くの期待を寄せている。Microsoftでは、そこに対して独自のものを提供するのではなく、顧客やパートナー、開発者が使っているものに合わせて、製品やサービスを変えて技術を組み込んでいく」(浅野氏)

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