ただし谷口氏によれば、同じオラクルの製品とはいっても新規ビジネスのクラウドと、既存ビジネスのシステムでは、その使い方が大きく異なる。例えばERP Cloudで使う機能は、現時点では顧客マスターの管理が中心で、発注などERP本来の機能の使うかどうかは今後の検討課題だという。つまり、新規ビジネスに必要なクラウドの機能だけという、ここでも“ブレない”使い方に徹している。
その理由は、既存ビジネスのシステム開発で起こりがちな“カスタイマイズ”がもたらす弊害を新規ビジネスで起こさないためだ。仮に既存ビジネスでの慣れた方法によってシステムを開発すれば、膨大なカスタマイズが発生し、ソリューションを提供するまで、あまりにも長い時間と膨大な費用が発生する。システムが稼働した後も次々に生じる要件から追加機能の開発と実装が繰り返され、システム自体が重厚長大かつ複雑になっていく。最終的にシステム統合などで最適化を図ろうとしても、手に負えなくなるという。谷口氏は過去にこうした状況を体験してことで、新規ビジネスでは、クラウドの標準から“ブレない”使い方を心掛けているという。
「サービスクオリティマネジメント基盤(SQM)」におけるアプローチ
サービスクオリティマネジメント基盤や認証基盤の構築では、前もって予想できる処理や作業に必要な機能がクラウドサービスの標準機能として既に用意されていた。このためカスタマイズをほぼすることなく設定変更で済み、サービスクオリティマネジメント基盤は、構築作業に1カ月半、習熟作業に1カ月半の合計3カ月で本番稼働にこぎつけた。
将来的に新規ビジネスの規模が拡大していけば、やはり機能をカスタマイズする要求が出てくると予想される。それでも、サービスクオリティマネジメント基盤におけるクラウドの使い方では、カスタマイズの弊害をできるだけ回避すべく谷口氏は、カスタマイズの要求に対して、「クラウドサービスの標準機能は世の中のニーズから生まれたもの」と説明しているという。
つまり、カスタマイズ開発をしたがる独自機能とは、市場からはあまり必要とされてないとものとみなすこともできるだろう。むしろクラウドサービスで標準機能として追加されるものが市場から必要とされており、標準機能を利用することが、新規ビジネスに寄せる利用者の“期待”に応えることにつながるという考え方だ。
このようにリコーの新規ビジネスにおける“ブレない”クラウドの使い方では、さまざまな要求や業務の内容、市場環境といった条件や課題を整理し、常に“最善のあるべき姿”を描きながら、実際に適用し得るサービスや機能を選ぶ。現在は、ソリューションサービスの中核となる(2)や(3)では既存ビジネスのノウハウも生かしやすいオラクルを採用し、(1)の競合優位性や付加価値を作り出すための基盤にはAWSを選んでいる。
谷口氏は、オラクルとAWSの組み合わせも固定的なものではなく、同社に合うものが別に出現すれば、積極的に検討したいとのこと。それによって、マルチクラウド化が加速するかもしれないし、特定ベンダーのロックインになるかもしれないが、重要なのはクラウドを使う側としての“ブレない”考え方や行動における主体性を確保することにある。
リコーは、経営戦略として既存の複写機ビジネスと新規のソリューションビジネスの統合によるビジネスモデルの変革を明確に打ち出す。そこには、“ブレない”クラウドの使い方も大きく関わっている。