コマースやマーケテイングを提供するSAP Hybrisは、マイクロサービスプラットフォーム「YaaS(Hybris as a Service)」を戦略の重要な柱に掲げている。日本での提供はまだだが、すでに米国では事例が出てきている。SAP HybrisでHybris as a Serviceトップを務めるCharles Nicholls氏に話を聞いた。
ーーYaaSの発表から3年近くになる。現状はどうなっているのか?
われわれは業界でも早期からマイクロサービスに取り組んできた。どのようにすれば機能するのかなど、多くの経験と技術を既に蓄積している。
SAP HybrisでHybris as a Serviceトップを務めるCharles Nicholls氏
学んだことの1つとして、マイクロサービスは宗教ではないということ。純粋なマイクロサービスを追求するのではなく、サービス主導の考え方で進めることが重要だ。もっと柔軟になって、意味のあるところ、効果が出るところで利用すれば上手くいく。
また、大規模なソフトウェアを解体する時、どのぐらい小さくするのか、どのようにソフトウェアをアーキテクトするのかを慎重に考えることも重要だと学んだ。ソフトウェアはこれまで以上にサービス主導となり、アプリケーションを解体して、拡張性とエンタープライズ級の品質を維持しなければならない。
市場という点では、ニーズが高いのはエンタープライズ市場だ。エンタープライズはデジタルトランスフォーメーションという課題を抱え、常に変化している。チャネルやデバイスがたくさんあり、新しいコンピューティングの形が生まれた結果、顧客のインタラクションが土台から変化している。
SAP Hybrisはコマースでいち早く”オムニチャネル”を実現したが、現在は”チャネルレス”の時代だ。顧客の期待が高まっており、一貫性、関連性があり、望んでいる時にアクションがしたいーー企業はコマース体験を再構築しなければならず、YaaSは最も手軽に始められる方法だ。
ーー受け入れはどうか?どのように利用されている?
先行しているのはどちらかというとBtoCだ。BtoC企業はデジタルトランスフォーメーションでも先行しており、顧客体験を重視している。ここでの手段としてマイクロサービスが使われている。
ーーYaaSの利用例は?
米国のサングラスメーカーMaui Jimは、即日配達のインパクトと適切な価格ポイントを探るにあたって、大規模なシステムの構築する代わりにYaaSを使って小規模なテスト用パイロットシステムを作った。
ニューヨークに限定し、Uberのオンデマンドデリバリネットワーク「UberRush」を利用して、試すことにした。システム側では、UberRushのデリバリマイクロサービスをMaui Jimの小売インフラに実装、これによりドライバーがストアに行き、アイテムをピックアップしてその日中に配達するというシステムを構築した。
これまでなら、このような機能の追加は数カ月が必要だったが、マイクロサービスは自己完結型のアプリケーションなので、簡単に統合できる。実際、Maui Jimは6週間でライブにこぎつけた。
このように、マイクロサービスによりアジャイルで、スケールアウトや柔軟性をもたらすことができる。不要になればシャットダウンすればよく、YaaSはこのレベルの柔軟性を提供する。SAP Hybrisのコマース、マーケティング、セールス、サービスとの統合も容易かつ迅速で、他のフロントオフィス技術とも簡単に統合できる。
スタートアップは小さくトライして、変更しながら進化させていく。大企業もスタートアップのように動く必要がある。APIエコノミーは大きく、企業はここと接続してメリットを享受する必要がある。
ーーSAPとの統合はどうか? SAPはPaaS「SAP Cloud Platform」やイノベーションツール群「SAP Leonardo」を持つが、連携は?
SAP LeonardoとYaaSはとても相性が良く、連携を強化していく。SAP Cloud Platformについては、大規模な作業を行なっており、より密に統合されたソリューションを提供したい。ともに統合に向けた作業を進めており、今後さまざまな発表があると期待してもらいたい。
SAPとの統合はまだ十分とは言えず、さらなる統合の必要性を強く感じている。統合といっても、ポイント間の統合ではなく、SAP Cloud Platformを活用するなどパイプの提供を進めていく。デジタルトランスフォーメーションというとフロントオフィスに注目されがちだが、バックオフィスこそ重要だ。デジタルトランスフォーメーションがきちんと進むためには、フロントオフィスとバックオフィスの両レベルでトランスフォームする必要があり、橋渡しが必要だ。SAPはこの技術を全て備える。