制御機器の開発・製造・販売を手掛けるIDECは、米国やフランス、ドイツ、英国、中国、シンガポールなど全世界の拠点を軸にビジネスを展開する総合メーカーだ。企業買収による海外市場での販路拡大など、持続的な企業の成長と変革に取り組んできた。
2017年には、フランスの産業用スイッチメーカーであるAPEMを買収し、急速にグローバル化を進めている。また、モノのインターネット(IoT)などの新興技術に対応した製品やサービスの開発にも積極的な姿勢を見せている。
その一方で、買収合併による海外事業の拡大やグローバル経営の推進に当たっては、海外の関係子会社からの情報をスピーディに収集し、経営に活用することが不可欠となる。そのためにも、世界共通の会計基準である「国際財務報告基準(IFRS)」の適用と会計システムの刷新が急務となっていた。
また、これまで“部分最適”によるシステム投資をしてきたため、財務会計や債権・債務、支払い、経費精算などの各業務単位に個別システムで管理していた。「システムの整合性に欠け、業務が煩雑で無駄の多い状態だった」(IDEC 経営管理部 業績管理・経理チーム リーダー 新屋昌右氏)。実際、各業務の明細データが別々のシステムに散在していたため、決算時などの情報収集に手間がかかったり、判断に遅れが生じたりしていたという。
IDEC 経営管理部 業績管理・経理チーム リーダー 新屋昌右氏
2020年のIFRS適用に向けて新会計システムを構築
このような理由から、IDECでは新会計システムの導入を計画。グローバルな経営情報を事業と子会社の単位で詳細に収集・分析が可能で、迅速な意思決定を支援する仕組みとして、複数の統合基幹業務システム(ERP)を比較検討した。
国内外のITベンダー数社から受けた提案の中から、SaaS型ERP「Oracle Enterprise Resource Planning(ERP)Cloud」に決定し、「Oracle Financials Cloud」の一般会計と買掛管理の機能を導入した。
選定理由としては、国内外の子会社情報の収集・分析が可能な点、ビジネスインテリジェンス(BI)とレポーティング機能で管理情報を分析できる点、分散された明細情報の統合と活用・支払処理の一元化に対応する点、IFRS適用に向けた会計処理の構築実績がある点を評価した。
基幹システムにERPパッケージ「Oracle E-Business Suite(EBS)」を使っていたことも大きかった。受注・購買・在庫・原価・工程といった管理機能を集約しており、EBSとERP Cloudでデータ連携させている。「ERP Cloudのデータ構造はEBSのデータ構造をほぼ踏襲しているため、データ連携時に発生するデータフォーマットの変換処理などが比較的容易」(日本オラクル)だという。
SaaS型ERPで4カ月の短期導入を実現
企業買収などを通じてさらなるグローバル化を進めるためには、業務の標準化を図っていく必要があった。グローバル展開しているSaaSであれば、世界で標準化されたアプリケーションや機能を速やかに導入できる。新拠点を立ち上げるときにも短期間に業務基盤を整備することが可能になる。
「手形取引など昔からの商慣行でさまざまな会計処理がある。真のグローバル企業を目指す中で、従来の慣習に縛られない会計標準を各国に展開したいと考えた。世界標準のベストプラクティスに業務を合わせることで、ビジネスプロセスの棚卸しと不要な作業の排除が可能になった」(新屋氏)
経理部門主導による短期導入も実現した。標準機能の活用することでアドオン開発を1本に抑えることで、本社では4カ月という短い導入期間で本番稼働を開始した。現在は既存環境と並行稼働しており、今後は米国・中国・タイ・台湾など国内外の連結子会社への展開を進める計画だ。グループ全体の決算業務の早期化とグループ管理会計において、より精度の高い分析を目指す。
SNSでコミュニケーションを促進
ERP Cloudには、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)機能が標準搭載されている。今後は、コミュニケーションの活性化などを通じた業務の効率化も進めていくという。「経理担当者の中にはコミュニケーションが苦手な人もいる。決算業務の中でうまく情報を交換できないために間違いが生じたり、情報の品質を高めたりできなかった」(新屋氏)
そこで、決算速報などの会計資料をSNSツールでリアルタイムに共有し、質問などに答えられる環境を用意する。レポートなどの定型資料では伝えきれない情報も発信していくとする。