新野社長とCSOの松倉肇取締役らが策定した新中計は、2020年度に売上高3兆円、営業利益1500億円などとするもので、前中計と数値目標は全く同じ。2年ずれ込んだということ。違いは、増収はグローバルなセーフティー事業から稼ぎ出すこと。同事業の売り上げ規模は、2015年度の約420億円から2017年度に約500億円、2020年度に約2000億円を見込む。
同事業の本社機能は2013年にシンガポールに移している。シンガポール政府がスマートシティー構想を推進し、顔認証システムなどの実証実験に積極的に取り組んでいることが背景にある。ここでの成果をグローバル展開する考えなのだ。だが、シンガポールの陣容はわずか数十人。問題は、成功するうえで欠かせない人材やソリューション開発、予算などの権限をどこまで持っているかだ。もし本社がコントロールするなら、新野社長が問題視する事業化のスピードは速まらないだろう。生体認証のコア技術は日本から持ち込んでも、周辺技術やソリューション作り、スタートアップなどを巻き込んだエコシステムの形成などセーフティー事業の統括はシンガポールに完全に移す。
もう1つ成長への成否のカギを握るのが北米にある。年内にもイノキュベーションを担う新会社をシリコンバレーに設立する。国内で開発した先端技術を使った製品開発が一向に進まないからだ。そこで、米国でアルファ版、ベータ版の段階から市場に流し、磨き上げながら事業化のスピードを上げる。商品化にあたって、複数の企業や個人から出資を受けて、スピンアウトや合弁会社などの形態を考えている。手始めに、AIエンジニアらを支援し、AIベンチャーを立ち上げる。ただし、自らシリコンバレーに本格進出するわけではないので、他力本願にみえる。
1000人規模のオフシェア開発センターであるインドも事業開発の拠点にする。分散処理技術HadoopなどOSS(オープンソース・ソフト)の活用力に優れているインドの技術者の力を生かした新ビジネスの開発に取り組む。
問題は、この3拠点の事業開発における位置付けだ。例えば、国内での新規事業は生まれなかったことを認めて、海外に拠点をシフトする。人材、技術も海外の力を借りる。M&Aもする。新野社長が目指す「NECをセーフティー企業にする」覚悟だ。「NECは何をする会社か」との問いに、1日も早く答えを出すことでもある。事業の柱をセーフティーにし、グローバルリーダーになる。そして、次の柱作りへと進める。新野社長に残された時間は2年だ。