ブロックチェーンの業務利用は2020年に“転換点”--サプライチェーンに効果

國谷武史 (編集部)

2018-03-02 06:00

 仮想通貨の中核技術として知られるブロックチェーンは、企業実務への適用や新規事業開発などの観点からもその活用が期待されている。企業のブロックチェーン利用の現状と今後の見通しなどをErnst & Young(EY) グローバル ブロックチェーン イノベーション リーダーのPaul R. Brody氏に聞いた。

ERPでは成し得ないコラボレーションの中核技術

 「分散台帳」と訳されるブロックチェーンは、端的に言えば、ネットワークに参加する複数のコンピュータに取引などのデータを分散して記録する。その記録は数学的なアルゴリズムによって改ざんなどができないよう“信頼性”が担保され、かつ公開される。また記録を一元管理する仕組みが存在しない非中央集権型ネットワークであり、それ故にブロックチェーンの維持に要するコストも少ない。

 こうしたブロックチェーンの仕組みや概念によって成立している代表的な利用例が仮想通貨になるが、Brody氏は、ブロックチェーンの企業利用とは、統合基幹業務システム(ERP)が社内に散在する資産を統合する役割を果たしたのと同じことを、複数の企業間で実現していく技術と表現する。

 「ERPの目的は、全社で同じデータソースを使い、共通のビジネスプロセスを構築・利用することにあった。ERPは企業内コラボレーションを実現したが、企業間のコラボレーションまでは十分にカバーできない。ブロックチェーンはビジネスのサプライチェーンを効率化する役割を果たす」

 Brody氏は、ブロックチェーンを用いた企業間コラボレーションの特徴を3点挙げる。1つは非中央集権型であること、もう1つは個社対個社のポイント・ツー・ポイント型だったEDI(電子データ交換)の“発展形”という点だ。「この2つの特徴によって、ブロックチェーンでは複数の参加企業が同じ情報に同じようにアクセスできるようになる」(Brody氏)

 最後の特徴は、ERPなどによる従来のコラボレーションではビジネスプロセスに主眼が置かれたの対し、ブロックチェーンでは財務的なトランザクションも扱える点にあるという。

 世界各地で進められている業務利用を目的としたブロックチェーンの実証実験は、貿易取引など、こうした特徴を踏まえたものが多い。EYでも2017年9月に、海運大手のA.P.Moller - MaerskやMicrosoftと、Azure上に構築したブロックチェーンで海上保険事業を展開するための実証実験を発表した。

 Brody氏によれば、特にブロックチェーンの投資対効果が高いのはサプライチェーンでの活用になり、在庫管理など資産の移動を伴う業務でのメリットが大きい。EYのある顧客企業は在庫を20%削減したという。調達業務で活用する場合、「例えば、調達部門は大口取引の値引き交渉に長けているが、実際にどの数量でどのくらいディスカウントできたのかを正確に把握できていない。全社の取引をブロックチェーンで管理すれば、発注量と消費量から正確なディスカウント効果を把握できるようになる」

 また、商品トレーサビリティや遊休資産の活用に利用するケースもある。「実際に複数のワインメーカーが参加するブロックチェーンでは、消費者は商品の原産地や製造元、流通経路といったサプライチェーン全体を見ることができる。この他に、季節要因などから稼働率が低い農業用重機を複数の農家で利用するための仕組みにブロックチェーンを導入しているケースがある」

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