ユーザーがデバイスやシステム、アプリケーションを通して何かのタスクを行うときに、ユーザーとシステムなどの間を取り持つのがUIであり、それらを使うことによって受ける感覚などがUXである。ユーザーに生じるUXを想定・推測するには、まず、ユーザーがなぜそのタスクを行うのか、なぜそのシステムを使うのか、などを考える必要がある。
商品やサービスのUXを考える場合であれば、そもそもユーザーはなぜその商品を使おうと思うのか、から始めねばならないし、必要に迫られて行うタスクでも、いやいややったり無駄に苦労したりしたくはない。
日頃使う業務システムなどでも「できれば使いたくない」と思われるよりは、気持ちよく取り掛かれるほうがよい (この点は未だに疎かにされがちである)。
そうした「モチベーション (動機)」の高低はもちろんUXに大きく影響するし、逆に、好ましいUXはモチベーションの向上につながりやすく、悪いUXはモチベーションを著しく低下させ得る。今回はその周辺を考えてみたい。
インセンティブ
人間は、既に習慣化・ルーチン化していることであれば特にモチベーションがなくとも無意識のうちに行動してしまうかもしれないが、意識的に行動を起こすには、多かれ少なかれそれに対するモチベーションが要る。
モチベーションというのはけして単純なものではなくありとあらゆる要素が関わり、個人差も大きいが、考え始めるポイントとしては、その行動によるユーザーにとってのメリットの大きさと、その行動を行うことに対するハードルの高さに着目するとよいだろう。
ユーザーは充分なメリットがあると納得できれば、モチベーションを持ち、ある程度のハードルを越えるだろうし、メリットが感じられなければ、どんなにハードルを下げてもモチベーションは発生せずその行動をしない、と考えるのが基本である。
したがって、ユーザーがメリットと感じるものを (タスク本来のメリット以外に) 付け加えるのがユーザーのモチベーションを上げる簡単な (往々にして安易な) 方法であり、そうしたものをインセンティブ(誘引、報奨) と呼ぶ。
発想としては簡単であるが、適切にインセンティブを設計することは簡単ではない。特に、UXをきちんと考慮したり、良いUX自体をインセンティブとしようとすると、設計の難易度は上がる (安易なインセンティブは逆にUXを悪化させる可能性もある)。
「実行しないこと」に対して何らかのペナルティを課すことで、実行することによるメリットを相対的に生じさせることもあり、それは「ネガティブ・インセンティブ」と呼ばれる。ユーザーにとって必須であったり重要性が高かったりするタスクであれば効果的に働くこともあるが、UXとして良いものとは言い難い。
少なくともペナルティを課す必然性などがユーザー側で納得し得るものでなければ、使って良い手段ではないだろう。
ユーザーにタスクを実行させることだけに執心するあまりか、必須ではないタスクに対してさえこうした方向で考えてしまうような例も時折見かけるが、それはUXを考慮していないどころかユーザーの立場を全く考えていない、と言える。