ブロックチェーンの夢と現実を正しく把握せよ
ガートナーのリサーチ部門でバイスプレジデントを務める鈴木雅喜氏
「ブロックチェーンの夢と現実を正しく把握しよう」と鈴木氏は言う。CIOは、ブロックチェーンの応用アプリケーションの多くが、まだ夢物語であることを知っておかなければならないという。現実のブロックチェーンは未成熟であり、信用されておらず、抵抗勢力も大勢いる。普及には時間がかかる。「だからこそ、今から取り組みを始めて欲しい」(鈴木氏)
鈴木氏は、ブロックチェーンに対する、よくある誤解を解いた。まず、「処理が遅い」という誤解や「どれも同じ」という誤解を指摘した。ブロックチェーンのコア技術は世界で100種類以上あり、特徴はそれぞれ異なる。将来は淘汰されて5種類ほどに収れんするという。
「ブロックチェーンはRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)である」という誤解もあるという。データを処理する基盤という意味ではデータベースだが、RDBMSの「Oracle Database」を置き換えるようなものではないと強調した。
「コストがすぐに下がる」というのも誤解だ。将来はコスト削減の手段として大きな期待が集まっているが、現時点では未熟な技術であり、お金がかかるという。
「セキュリティ上のリスクがない」というのも誤解だ。確かにコア技術にリスクは少ないが、応用アプリケーションのリスクには対処しなければならない。
「使い物にならない」とか「世界をすぐに変える」とかいう楽観論も誤解だ。
ブロックチェーンを試せるクラウドサービスはすでにある
現時点で業務システムをブロックチェーンに置き換えるのは難しいが、「試すことがすぐに出来るので、ぜひ試してみよう」と鈴木氏は勧める。鈴木氏自身も小型コンピュータのRaspberry Pi(ラズベリーパイ)でブロックチェーンのコア技術を動かして理解を深めたという。
今では、クラウドサービスで簡単にブロックチェーンのコア技術を試す環境が揃っている。米IBM、米Microsoft、GMOインターネット、日立製作所、テックビューロなどが、ブロックチェーンのフレームワークをクラウド型で提供しているという。
コア技術だけでなく、ブロックチェーンを活用した応用サービスについても、すぐに使って試せるクラウドサービスがある。鈴木氏は、こうしたサービスの中から、(1)ファイルの真正性をチェックするサービス「Acronis Notary」と、(2)安否確認アプリケーションにブロックチェーンを利用したサービス「getherd」を紹介した。
(1)のAcronis Notaryは、アクロニスが運営しているファイル改ざん発見サービスだ。ファイルをアップロードすると、ファイルのハッシュ値を管理してくれる。これにより、ファイルが改ざんされていないことを保証する。ブロックチェーン技術として、イーサリアム(Ethereum)のコアを使っている。
(2)のgetherdは、電縁が運営している安否確認アプリケーションだ。ブロックチェーン技術としてビットコインのコア技術を改修して使っている。メッセージ領域を使って安否情報をやり取りする仕組みだ。
講演の最後に鈴木氏は、社会が大きく変わる可能性に言及した。ブロックチェーンによる社会の変革は、すぐには実現しないが、間違っても無視しないで欲しいと指摘した。「小さくて構わないのでブロックチェーンへの取り組みを続け、理解を深めて欲しい」(鈴木氏)