脳ビジネスを展開するPGVも受賞する。大阪大学COI(センター・オブ・イノベーション)発ベンチャーの同社は、冷却シートを額に貼るような感覚で、容易に装着できるパッチ式の脳波センサーを開発するともに、脳データを活用したビジネスを提供する。家庭で、脳波解析が可能になれば、利用者自身が脳の活性化やヘルスケアに活用できるという。簡易な脳波診断に加えて、ユーザーの反応を理解したうえでの商品開発・マーケティング、個人の脳内モニタリングなどのサービス・プラットフォームのビジネスを考えている。
ITベンチャー以外では、モーターコイルの超高密度を実現したアスターが受賞した。2010年1月に設立した同社は、独自の積層技術を駆使し、小型の高出力・高効率なモーターコイルの開発に成功。「自動車や航空宇宙、鉄道などのモーターに使われれば、省エネルギー化、産業競争力の強化が期待される」(荒川氏)。2019年にも、本社のある秋田県横手市に工場を新設し、顧客企業向けモーターの本格生産を開始する計画。
問題は、電子・電機大手の危機意識にある。JEITA会長でもある長榮周作パナソニック会長は「超スマート社会を目指すコネクテッド・インダストリーの実現に、ベンチャーとの新たなパートナーシップも大切」と、オープンイノベーションの重要性を説くが、既存事業が破壊される中で、新規事業を本気で創出する考えがあるのかだ。協業の姿勢も問われる。受賞企業の規模は数人から数十人だ。そんな零細・中小企業を下請け業者とみていないか。第1回のJEITAベンチャー賞を受賞したAI事業を展開するプリフォード・ネットワークスの西川徹社長兼CEO(最高経営責任者)は「対等に研究開発する深い関係を結ぶこと」と、かつて大手とのビジネスパートナーになることを協業条件の1つに挙げていた。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。