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Rethink Internet:インターネット再考

テクノロジーにおける「開発意図」と「使用用途」は一致しない

高橋幸治

2018-04-07 07:30

Uberの自律走行車事故がさっそく突き付けた「社会実装」の困難

 前回でいまの私たちに最も必要なのは、第2四半世紀に突入したインターネットと連動する新たなテクノロジを「展望」することではなく、それらの技術を社会にいかに「実装」するかであるということを書いた。

 期待や希望だけに満ちあふれた「未来展望」の時期はもはや過ぎ去り、問題や課題に直面しながら慣例や慣行、常識、規範、倫理、さらには法律などと折り合いを付けながら技術を「社会実装」していくこと……。私たちの創造性はこの現実的な軋轢や摩擦の中でこそ発揮/行使されなければならない。そしてそれはおそらく、極めて難しいものになるだろう。

 3月19日に米国アリゾナ州で起きたUberの自律走行車による死亡事故は、この「社会実装」の困難な一面を私たちにまざまざと突き付けた。アリゾナ州はすでに自動運転車による公道の走行が許可されていたものの、この事故を受けて、同州は上記の認可を一時的に取り消した。実際に人が死亡している以上、許可の棚上げは当然のことだが、それはあくまでも「一時的」な措置であり、自律走行車の「社会実装」自体が頓挫したわけではない。我が国においても今後さらに高齢化が進行し独居率が増加していくことなどを考えると、自律走行車は必要不可欠かつ火急的要件である。

3月20日付のCNETの記事。米国時間の19日に発生したUberの自動運転者が自転車に乗った女性をはねて死亡させた事故を受け、アリゾナ州が公道での試験運転を一時停止する発表を報じたニュース

 同種の問題はこれから人工知能やIoT、VR、ウェラブルコンピュータなどのあらゆる分野でかたちを変えて浮上してくるだろう。しかも、それらの技術は既存の社会構造の中にそのまま埋め込むにはあまりにも新規性が高過ぎ、現在稼働している幾多の社会システムと即座に折り合ったり容易に溶け合ったりすることまず不可能だ。とはいえ、トライ&エラーを繰り返さずして「社会実装」への道は開けない。犠牲者が出ても致し方ないというわけでは決してなく、その試行錯誤の方法や試験運用の形態にこそ新しい発想に基づいたクリエイティビティを投入しなければならない。

「開発者の理想的な用途」と「利用者の現実的な用途」は非対称

 そもそもあらゆるテクノロジにおいて「開発者の理想的な用途」と「利用者の現実的な用途」は非対称である。これは技術に限った話ではなく、あらゆる芸術表現における制作者と鑑賞者の間にも存在する溝である。私たちは小説を読むにも映画を観るにも音楽を聴くにも、情報の発信者であるアーティストの意図を汲み取ろうとすることはあるが、解釈は情報の受信者それぞれの趣味嗜好、そして文脈に委ねられており、各オーディエンスが当該の作品をどう受容するかについてアーティストは関与できない。そして、言うまでもなくこの非対称性こそが芸術表現を豊穣なものにする。

 現在私たちが日常的に使用しているSNSの「ハッシュタグ」もサービスの開発者サイドが最初から搭載していた機能ではない。これは2007年に一人のユーザーから提案のあったもので、その呼び掛けに呼応する形で、いまやあらゆるSNSに不可欠の機能となった。こうした「社会実装」の途上で利用者サイドが新しいテクノロジの進路を決定していくということは特に珍しいことではない。

 米国の発明家トーマス・エジソンの「三大発明」といえば一般的には蓄音機(1877年)、白熱電球(1879年)、映写機(1891年)ということになっており、中でも彼の手による蝋菅式蓄音機はその後の音楽の一般家庭への普及と音楽産業の隆興を用意した偉大なテクノロジとして認知されているが、エジソン自身は同技術の理想的な用途を音楽の録音/再生とは考えていなかった。

 このエピソードについて、社会学者の吉見俊哉氏が『「声」の資本主義』(講談社)の中で詳細に記述してくれているので下記に引用しておこう。

とはいえ、われわれにとってむしろ興味深いのは、この声の視覚化装置のその後の社会化のプロセスである。蓄音機を発明した当時、エディソンの最大の関心事は電信と電話にあった。一八七七年、前年に発表されたベル式電話機を改良し、カーボン式の送信機を考案したエディソンは、だれもが話を録音できる小さな装置によって録音を中継所に送り、これを再生させて電話線で遠隔地に送るシステムを考案しようとした。こうすれば、電話の利用を、まだ高価な電話網に加入できなかった大衆層まで拡げていくことができる。こうして人間の声は、時間を超えて記録され、空間を超えて送信される信号へと変換されるであろう、と考えたのである。

こう考えるとエディソンにとって、生まれたばかりの蓄音機は、何よりも電信や電話と同類の事務機器であった。彼は、自分の発明を世界にアピールしていくのに、この装置が可能にするであろう一〇の利用法を挙げた。すなわち蓄音機は、手紙の筆記としてあらゆる種類の速記の代替手段、目の不自由な人のための音の本、話し方の教授装置、音楽の再生機、家族の思い出や遺言の記録、玩具、時報、さまざまな言語の保存装置、教師の説明を再生させる教育機器、電話での会話の録音機のいずれにもなり得ようというのである。ここにはたしかに音楽の再生という利用法も挙げられてはいるが、基本はあくまでも口述の記録と再生である。つまり蓄音機は、今日でいうならレコードよりもテープレコーダーにはるかに近い記録装置として考えられていたのである。

 


社会学者の吉見俊哉氏による『「声」の資本主義』(講談社)。遠隔地の「声」を伝送/伝達したいという人間の欲望とそれを可能にしたテクノロジーの歴史を紐解きながら、情報ネットワークの本質を照射する。現代のメディア考察にも応用可能な良書

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