まだある。こうした場に、出ている人達は、部を代表して会社に直接貢献をする機会に恵まれているだけましである。IT部門の中には、そうした会社内のコミュニケーションから自分を極力遠ざけて働く人が、少なからずいる。
批判を覚悟で申し上げれば、オタクと呼ばれる人たちに猛烈に近い人たちだ。朝来たら、PCに向かう。黙々とPCに向かう。そんなにメールは来ていないし、重要でもない。普段の仕事中は、課内で軽口を言い合ってじゃれあっている場合でも、PCに向かっている。打ち合わせにおいても、当然しゃべらない。IT部長から、「なんとか育成する方法はないか?」と相談されても、ちょっと手の打ちようが想像できない。おそらくは、会社の中でも手を焼いている方なのだろう。
こうした人自体が問題なのではない。会社の中で、手を焼いているような人が、「とりあえずIT部門に入れておいていいのではないか」と考えられる風潮が好ましくない。ずっとPCに向かっていてもできる仕事があると思われているのであろうか。会話が成立しなくても、仕事が回ると考えられているのであろうか。多かれ少なかれ、人事部などからはそう思われているのであろう。落ちこぼれに落ちこぼれを任せる…こうしたことが日常的に行われているのだ。
なぜ、日本のIT部門は、多くの企業で同じような問題を抱えるのか?
本シリーズは、この落ちこぼれからの脱却方法をひも解いていくことを意図している。なぜ、日本企業のIT部門がグローバル・スタンダードを導入することをやめるべきか、その背景にあるものをひも解き、具体的な解決のステップを示していこうと思う。
ここまで、IT部門の落ちこぼれの実態を見てきた。ここで紹介しているのは、フィクションの世界ではない。筆者がこれまで見てきた、実際のIT部門である。筆者がコンサルティングを25年間にわたって続けてこれたのは、多くの日本企業のIT部門において、同じような「落ちこぼれ」状態に陥っていたからだ。
考えてみて頂きたい。おかしくないだろうか?一つ一つの企業は違うのに、どうして多くの企業において似たような問題が起きるのだろうか?
筆者は、単に個別企業、個別IT部門だけの問題ではない産業全体の、社会全体の問題が背景にあるからと考えている。この産業全体、社会全体の問題は、日本固有の問題ではないかと筆者は考えている。だから、グローバル・スタンダードでは解決しないと筆者は考えているのだ。産業条件、社会条件が異なるのに、世界共通のスタンダードを入れたところで解決するはずがない。産業条件や、社会条件にあった解決策というものが必要となる。
続く章で、日本企業のIT部門が落ちこぼれる産業条件や社会条件を見ていきたい。
- 宮本認(みやもと・みとむ)
- ビズオース マネージング ディレクター
- 大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。