ソフトウェアの構築に携わっている人は、エンジニアからプロダクトマネージャー、ビジュアルデザイナー、ユーザビリティテスト担当者までさまざまだ。これだけの人が携わっているにもかかわらず、最終的な製品がエンドユーザーにとって最適に設計されていないこともある。
それは、人間の行動には市場調査では完全に答えが出ない部分があるためだ。SAPのJames Harvey氏によると、エンタープライズソフトウェアを構築するにあたっての疑問は「個人的なケースでも、チームとしてまとまった場合でも、人はどのように課題に立ち向かうのか」という点だという。
SAPの「SuccessFactors」エンジニアリングおよびクラウドオペレーション担当シニアバイスプレジデントを務めるHarvey氏は、この疑問の答えを見つけるべく、一般的な技術者の領域を超えた部分に踏み込んだ。SAPのSuccessFactors部門には、同社の顧客や潜在顧客を観察する行動科学者が約6名存在し、顧客の仕事場で側について仕事ぶりを見ているという。
「彼らは設計をすることもなく、要件定義をすることもない。従来のソフトウェア担当者がやるようなことは何もしない」とHarvey氏。「彼らが注力しているのは人間についての研究で、課題にどう立ち向かっているかだ」
人類学者や行動科学者がUXデザインに関わることは特に新しいコンセプトではない。数十年前、Xeroxのパロアルト研究所ではコピー機の設計に社会科学者が携わった。DellやMicrosoft、Intelといった大手テクノロジ企業でも、長年にわたって社会科学者を雇用している。さらに2年前には、Cognizantが人間行動の研究を専門とするコンサルティング会社ReD Associatesの株を49%取得。CognizantとReD Associatesは戦略的パートナーシップを結び、人間科学がITサービスを補完する方法に取り組んでいる。
このアプローチは、他のエンタープライズソフトウェアベンダーが展開してきたデザイン思考とも似ている。
SuccessFactorsは、行動科学で人材分野の基本的な課題を一部解決している。というのも、SAPでもSuccessFactorsによって人が他の人材を見つける際に役立っているのだ。
当然のことながら、Harvey氏によると「人材探しの課題」はすべての企業に存在し、特に約500人以上の社員を抱えるようになった企業にとっては深刻だという。SAPはAppleと共同で、社員がコミュニケーションしたい同僚を探す際、どのような行動を取るのか調査した。