--事実の部分とは?
Daugherty氏:AIは60年前からあります。この言葉は、1956年にダートマス大学で開催された有名なカンファレンスで生まれました。最近になって急に動きが出てきたのは、3つの劇的な変化が起こったからです。
1つ目は、コンピューティング分野での進歩です。今は、以前よりはるかに強力なアルゴリズムを実行できるコンピューティングパワーを提供する、クラウドコンピューティングを利用できます。それから、今では大規模なデータがあり、データのコストも急激に低下しています。また、新たなデータの供給源として、IoTや動画など、あらゆる種類の情報があり、ペタバイト、エクサバイト単位の新しい情報が企業に流れ込んでいます。最後がアルゴリズムです。2010~2012年の時期に、これまで長い間温められてきたテクニックを可能にするいくつかのアルゴリズム面での進歩が起こり、誤差逆伝播法や深層学習などのテクニックに新たな命が吹き込まれました。追いかけて行けば分かりますが、これらの変化によって、視覚や音声、自然言語の理解などの分野にあらためてAIを適用できるようになりました。そのことが、この5年間の急激な進歩の原動力になったのです。これが、今これだけの変化が起こっている理由であり、60年前からある技術が、再び注目を集めている理由です。
--究極的には、AIの価値はどこにあるのでしょうか。
Daugherty氏:AIの面白いところは、以前は想像もしていなかったことまで可能にしていることです。ライフサイエンス業界で行っている、新しい深層学習のアルゴリズムを使って治療処置と分子化合物の性質をマッチングさせる作業などが、その例にあたります。これによって病気と治療のマッチングが加速され、新しい治療法が世に出るまでの時間が短くなり、人々の健康を改善し、これまで不可能だった形で問題を解決することで、人の命を救っています。これは今までとは違うことであり、AIが非常に興味深い形で潜在能力を発揮している分野だと言えるでしょう。
--重要なのは、効率よりもイノベーションだということでしょうか。
Daugherty氏:効率の向上には、常にメリットがあります。クラウドコンピューティングにせよ、別の技術にせよ、あらゆるテクノロジは、何かをより効率的に行えるようにするためのものです。新たな可能性が切り拓かれるのは、その後です。これはAIでも同じです。AIの初期の応用事例の多くは、効率の向上に関するものでした。そちらの方がビジネスケースを構築しやすく、多くの事業はそこからスタートします。ROIが改善するわけですから、それは悪いことではありません。多くの場合、そこから始めることが合理的なのです。
しかし、AIのビジネス利用はまだ始まったばかりです。これがどのように成熟していくかについては、議論していく必要があるでしょう。ただし、本物の潜在的可能性が見えてきているのは、まったく新たなコンセプトの再構築(reimagine)が可能な分野です。われわれは、今起こっていることを表すのに、この言葉を使っています。その領域では、さまざまなコンセプトが再構築され、このテクノロジがなかった頃とは異なる方向にビジネスが動いていきます。