本大綱で方向性を示しているように、自動運転は、技術が加速度的に進展している中、安全確保や交通ルール、責任関係など、制度整備におけるさまざまな観点から、スピード感をもちつつ、十分かつ慎重な議論・検討が必要となっている。
自動運転における制度整備は、段階的な展開が現実的で、国家戦略特別区域(特区による)による取り組みも進められている。
内閣府は2018年3月9日、「第33回 国家戦略特別区域諮問会」を開催し、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案について、議論・検討を行い、自動運転などに関連する電波利用などの高度で革新的な近未来技術に関連する過去に類例のない実証実験を、特区内に地域限定型のサンドボックスを設け、より迅速・円滑な実現に向けた方針を示している。
改正後には、自動走行の実験内容の「区域計画」を作成し、総理が認定できるようにし、安全を確保しつつ、より迅速・円滑に先端的 な実証を実施できる環境を整えていくとしている。
出所:第33回 国家戦略特別区域諮問会 2018.3
そのほか、各省庁の自動運転に係る制度面や社会受容面に関する取り組みを紹介する。
■「自動走行に係る官民協議会」(内閣官房 経済再生総合事務局)
自動運転に関する実証プロジェクトの進捗管理、実証の成果・データの共有、必要な制度整備などについて協議
■警察庁
「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究」を通じて、道路交通法に関連する課題へ対応
■国土交通省
「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」(国土交通省)において自動運転における自賠法の損害賠償責任のあり方について検討
■経済産業省
「自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究」を行い、自動走行に関するユーザー期待と技術のギャップ、事故時の責任関係を整理し、社会受容性を検証
これらの検討内容の法制度に関する部分は、「自動運転に係る制度整備大綱」に盛り込まれる予定だ。
自動運転とITSに関する政府の全体戦略に位置付けられるのが、「官民ITS構想・ロードマップ」だ。
政府のIT総合戦略本部は、「官民ITS構想・ロードマップ 2017」(平成29年5月30日IT本部決定)を策定し、高度な自動運転の市場化・サービス化に係る目標設定をしている。
具体的には、2020年までに、
- 高速道路での自動運転可能な自動車の市場化
- 限定区域(過疎地等)での無人自動運転移動サービス
さらに、
- 2020年度以降に高速道路(新東名)でのトラック隊列走行を実現。
という目標を掲げている。
高度自動運転の市場化・サービス化には、関連する法制度整備と技術開発が重要としており、法制度整備では、
- 自動運転車両の安全基準
- 交通ルールの在り方
- 保険を含む責任関係の明確化 等
- 国際動向、イノベーションに配慮した制度設計
をあげており、特に自動運転による新しい産業創出やイノベーションを阻害しない制度設計が重要となるだろう。
政府が「自動運転に係る制度整備大綱(案)」などで示す自動運転が目指すものは、
- 交通事故の削減や渋滞緩和等による、より安全かつ円滑な道路交通社会の実現
- きめ細かな移動サービスを提供する、新しいモビリティサービス産業を創出
- 自動運転車による日本の地方再生
- 世界的な自動運転車の開発競争に勝ち、日本の自動車産業が、引き続き世界一を維持
を挙げており、自動運転による、社会課題への対応や新しい産業モデル、地方再生、日本の産業競争力向上など、早期実現に向けたさまざまな期待が集まっている。
そのためには、世界の動きも歩調をあわせながら、制度整備への対応も慎重かつ迅速に対応を進めていく必要がある。また、消費者の自動運転に関する認知や理解、期待や不安など、日々変化しており、自動運転が社会に浸透していくためには、技術開発や制度整備に加えて、社会の受容性を高めていくことも重要となっており、この点もあらためて整理してみたい。