決裁文書の改ざん問題、改めて問いたい文書管理の在り方

小山健治

2018-05-09 07:00

民間企業にも潜在するおざなりな文書管理の問題

 学校法人「森友学園」問題での財務省の決裁文書改ざんに続き、これまで政府が国会で「ない」と説明していたイラク派遣自衛隊日報が今になって「発見」されるなど、各省庁におけるずさんな公文書管理の実態が次々に判明している。

 それが意図的に行われたものであったかどうかは政治的な問題となるためここでは言及しないが、いずれにしても各省庁でばらばらに運用されている文書管理のシステムやルールが、このような問題を招いた原因となっていることは間違いない。

 1年間に各省庁から生み出される公文書は270万ファイルを超えるとも言われ、毎日1万を超えるファイルが作られている計算となる。1つのファイルの中に複数の公文書が存在する場合があることを考えれば、実質的な文書の数はこの数倍に及ぶことになる。これらの公文書の一つひとつに対して適切なセキュリティとアクセシビリティ、トレーサビリティを担保するのは容易なことではない。

 そして、こうした文書管理に関する問題は何も省庁だけに限られるものではなく、多くの民間企業や団体にも潜在しているのが現実だ。

 もちろん個人情報をはじめとする秘匿情報、あるいは保存期間が法律によって定められた法定保存文書など、コンプライアンスを目的とした文書管理については、ほとんどの企業が専用システムによって、それなりの体制が確立されている。

 しかし問題となるのは、その枠組みの外側に存在する大量の文書の扱いだ。営業や生産・製造、研究開発、財務経理、ワーキンググループ活動など、あらゆる業務のプロセスで多様なドキュメントや報告書が作成され、社内外の関係者間で共有されている。

 言うまでもなくこれらの文書は、企業にとって最も重要なナレッジやノウハウのかたまりであり、知的財産そのものである。それにもかかわらず、重要な文書が個人のPCに散在していたり、ファイルサーバに無秩序に保存していたりといった、おざなりな管理しかできていない企業が少なくない。

 例えば、他社との間で知財紛争が生じたケースを考えてみる。その知財の先使用権が自社にあることを立証するためには、研究開発から事業計画、製造、販売に至るあらゆるプロセスで作成された文書を洗い出すとともに、それらが同一のアイデアや技術に基づくものであることを客観的に主張できるよう、関連する文書同士を時系列で整理してひも付けることが必須となる。

 これらの文書がとりあえずファイルサーバ内に保存さえされていれば、全文検索機能などを使って簡単に引き出すことができると考えるかもしれない。だが、実際にはどのプロセスの、どんな種類の文書が、どのような書式で、どのフォルダに保存されているのかを完璧に把握した上で、個別に検索を掛けなければならないという煩雑な手間が発生する。仮に検索操作の不手際から漏れが生じた場合、当然のことながらその文書は証跡とは成り得ず、結果として先使用権を主張できなくなってしまう恐れがある。

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