富士通とPivotal、基幹系システムの再開発事業で協業--アジャイル手法などを駆使

國谷武史 (編集部)

2018-05-10 15:40

 富士通と米Pivotalは5月10日、基幹業務系のレガシーシステムの再構築を希望する企業向けのビジネスで戦略的に協業すると発表した。Pivotalが持つリーンスタートアップやアジャイル開発などの手法を駆使し、顧客企業との新たな関係作りも目指すという。

 協業での目的は、(1)顧客企業の基幹業務系システムの再開発に必要なノウハウの取得および意識改革を含めた人材の育成、(2)「Pivotal Cloud Foundry」を中核にマイクロサービスやコンテナ、APIなどのテクノロジを活用したクラウド/オンプレミスへのレガシーシステムの再開発――の2つ。富士通では、この2つを通じてビジネスのデジタル変革を“本格的”に志向する顧客企業のニーズに応えると説明している。


富士通が提唱する基幹系システムの再開発におけるステップ

 レガシーシステムの再構築は、俗に「レガシーマイグレーション」や「ITモダナイゼーション」などと呼ばれるが、その多くは古い業務システムの“延命”が目的で、原則として機能などはそのままに、稼働基盤となるハードウェアを入れ替えたり(リホスト)、古い開発言語によるアプリケーションを比較的新しい言語で作成し直したり(リライト)する方法が用いられる。

 記者会見した富士通 デジタルフロントビジネスグループ エグゼクティブアーキテクトの中村記章氏によると、同社がこれまでに対応したITモダナイゼーションに関する案件の多くは「延命」目的だったという。しかし、ここ数年で金融や製造を中心とする顧客企業から、「それでは代わり映えしない」「デジタル変革で目指すゴールに到達できない」といった相談が増加。同社は、こうしたニーズの変化に対応するため、まずはPivotalが持つソフトウェア開発手法や意識改革のノウハウを取得し、それを国内の顧客企業に提供していく。

 具体的な施策では、2018年下期にPivotalの手法を活用したソフトウェア開発のスキル向上や意識改革を図る施設「富士通アジャイルラボ(仮称)」を東京都大田区に開設する。ここでは、富士通担当者と顧客企業の担当者がチームを組成し、開発手法の習得や意識改革を進めつつ、12~16週におよぶ共同体制での開発を実施していく。富士通は、同時並行で社内人材の育成を図り、リーダークラス以上の経験やスキルを取得した担当者を2018年度中に200人、2020年度末に550人に増やす。

 また2019年以降には、マイクロサービスやコンテナ、APIなどクラウド環境と親和性の高い技術を活用した業務アプリケーションの再開発を行う「トランスフォーメーションサービス」の提供も予定。ビッグデータアナリティクスやオムニチャネルのCRM(顧客関係管理)、デジタルマーケティングといった新しいアプリケーションと旧来の業務アプリケーションがクラウド環境で連係するシステムに再構成していくもの。なお、そうした必要性がやや低く旧来の業務アプリケーションを“塩漬け”にするケースにも対応するとしている。

 中村氏は、デジタル変革を志向する企業の課題に「人材(スキルやマインド)」「技術(選定眼や活用ノウハウ)」「開発パートナーとの関係性」の3つがあると指摘し、中でも「開発パートナーとの関係性」では「請負型ではない新しい関係構築」の必要性を強調した。

 日本のシステム開発の典型となる請負型は、システム開発をめぐるさまざまなリスクを受託側が負うことでプロジェクトが失敗するなどの事態を可能な限り回避するが、一方でシステム開発の丸投げやプロジェクトの長期化、コストの増大化といった弊害を伴う。記者会見中には「意識改革」という表現を何度か用いられ、経済情勢や事業環境が激しく変化する現状でデジタル変革を本当に進めるには、請負型の開発が時代にそぐわないという主張が垣間見られた。


基幹系システムの“延命”目的とした対処ではデジタル変革ができないとする企業のケース

 Pivotal サービス事業担当シニアバイスプレジデントのEdward Hieatt氏は、同社の強みにPivotal Cloud Foundryなどのソフトウェア製品だけでなく、リーンスタートアップやアジャイルなどの近代的なソフトウェア開発手法を確立した経験やそれらを教育サービスやコンサルティングとして提供する「Pivotal Labs」にあると説明した。Pivotal Labsは1989年に創設され、現在は東京を含む世界30カ所で約1000人の担当者が、顧客企業との開発を手がける。

 また同社は、多くのITベンダーと協業関係にあるが、Hieatt氏は「多くの場合はCloud Foundryをより良いものとして開発するが目的であるのに対し、富士通との関係は我々のメソッドを顧客企業に広く提供していく上で、もっと深いものだ」と協業の意義を強調した。


協業を発表した士通 デジタルフロントビジネスグループ エグゼクティブアーキテクトの中村記章氏、Pivotal サービス事業担当シニアバイスプレジデントのEdward Hieatt氏、Pivotalジャパン カントリーマネージャーの正井拓己氏(右から)
基幹系システム再開発におけるアジャイル手法の採用を富士通では「エンタープライズアジャイル」と呼んでいる

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