バズワードだったクラウドコンピューティングが標準的なプラットフォームとして定着しつつあるなか、サービスの差別化を目指す動きによって、より高速、かつより柔軟性に優れたプレミアムサービスティア向けの新たなユースケースが生み出されている。だが、これらのユースケースは現実世界で適切なものとなっているのだろうか?
エグゼクティブサマリ
エッジコンピューティングは現在のところ、成熟した市場というよりも将来的な展望に近い。つまり、製品よりもコンセプトに近いと言える。これは、企業がデータセンターのプロバイダーだけでなく、データの処理場所についても決定するようになりつつあるなか、そのサービスに関する議論において再びサービス品質(QoS)に光を当てるための取り組みなのだ。
「エッジ」とは、データセンターのリソースに最小限の時間でアクセスできる理論上の空間だ。どのような企業の場合でも、エッジの場所としてはそのデータセンター内(つまりオンプレミス)になるのは明らかだと考えるかもしれない。あるいは、パーソナルコンピュータの黎明期を知っている人であれば机の上や、どこであれPCが置かれている場所のはずだと考えるかもしれない。実際のところ、それらはいずれも妥当な考えだ。
しかし、今日における世界のコンピューティングサービスはネットワークでつながっている。米ZDNetもこうしたサービスの一例だ。われわれ発行元は、この記事(そして記事中のマルチメディアコンテンツ)を最短時間で読者のもとに送り届けられるよう、戦略的なロケーションにサーバを設置するべく投資している。これを実現するコンテンツ配信ネットワーク(CDN)という観点から見た場合、米ZDNetのサーバはエッジに配備されていることになる。
携帯電話の基地局脇に設置されたVapor IOのマイクロデータセンター「Kinetic Edge」
提供:Vapor IO
その他のサービス(既に肥大化している「クラウド」という名の塊にまとめられるかもしれない)のプロバイダー各社は、独自にエッジを探している。データストレージプロバイダーや、クラウドネイティブアプリケーションのホスト、IoTサービスプロバイダー、サーバメーカー、不動産投資信託(REIT)運用企業、組み立て済みのサーバ筐体を製造するメーカーはいずれも、自社の顧客と、自社にとってエッジになるはずのものとの間に高速回線を確保しようとしている。
彼らが追い求めているものはいずれも、競争上の優位性だ。エッジという考えは、ある種のサービスを他のサービスよりも高価にする根拠として使える、筋の通った理由を持ったプレミアムサービスの可能性を垣間見せてくれる。ただ、エッジが最終的にクラウド全体を包含するようになるという話を聞いたことがあれば、これが実際のところ理にかなっていないと分かるはずだ。すべてがプレミアムになれば、プレミアムなものは存在しなくなるのだ。
しかし、もしもエッジが完全に花開けば、企業がより高い金額を支払ってもよいと考えるようなプレミアムサービスに対する潜在的なニーズが裏付けられることになる。ただこれは、「ネットの中立性」に関する核心的なよりどころに反するものとなる。あるティアに何らかの高速サービスが導入されれば、下位のティアにおけるサービスレベルが低下する。しかし、その危惧はまだ現実化していない。
それでも、プレミアムサービスの利点を売り込もうとするのは、クラウドやインターネットにおいて、コモディティ化よりも差別化が強い経済的推進力になるという主張を、特定の顧客に訴えていくことと同義になっている。その結果、実績として挙げられるユースケースの例がそれほど多くない現状において、エッジを声高に叫ぶ伝道者は顧客の想像力の限界に挑戦することになる。