生産性向上に効くビジネスITツール最前線

カスタムAppでチームの働き方改革を支援--老舗DBソフト「FileMaker」の進化 - (page 2)

柳谷智宣

2018-05-28 07:00

組織の中でチームが自ら課題を解決するように

 カスタムAppは、多くの機能の中から必要なものを選び出し、組み立てていくスタイルとなっている。システムを使い始めてからでも、利用者の要望に応じて機能を追加したり、画面を変更したりすることができる。直感的な操作が可能なため「ちょっとPCができる」という人であれば十分に使いこなせるという。

 フィールド位置の変更といった小さなことでも、開発者に依頼して作業してもらうのが一般的だ。社内に開発チームがない場合は、外部に依頼するため見積もりから始めなければならない。

 「私たちの中心となるお客さまは、組織の中のチームです。プロジェクトチームや部課が抱える業務課題を、ビジネスユーザー自身の手で解決できるように製品を提供している。プログラミングのスキルを持っていなくてもカスタムAppを作れます。これまで1週間かかっていた作業を1日に短縮したり、それによって残業時間を改善したりできます。働き方改革を実現するための手段としてFileMakerが使われています」(荒地氏)

 FileMakerには、定型処理を自動化するスクリプト機能も備わっている。例えば、「検索/置換を実行」や「レコード/検索条件をコピー」といったステップを選んでいくだけで、ローコードで処理を組み立てていけるのだ。本来であればコードを書かなければならないスクリプトを、日本語で記述できるようになっている。

 実際に試した感じでは、確かに日本語で操作できるものの、プログラミングの素養が全くないとさすがに難しいかもしれない。とはいえ、「ループ」や「条件文」の意味が分かる程度の知識があれば使えそうだ。

スクリプトを日本語ベースで作成・編集できる
スクリプトを日本語ベースで作成・編集できる

 さらに高度なカスタマイズが必要なら、FileMaker Business Alliance(FBA)に加盟するパートナー企業に依頼するという方法もある。例えば、外部データベースとの連携など、FileMaker以外のテクノロジに関するIT知識が求められる場合だ。FBAパートナー企業は、日本全国に約180社あるという。

 それとは別に、受託開発をしている企業が開発ツールとしてFileMakerを利用するケースもあるという。開発企業はコードを書く技術を持っているのに、どうして別会社のプラットフォームを利用するのか不思議に思ったのだが、その答えは「スピード」だという。

 「FileMakerはデータベースソフトウェアとして、インターフェースとビジネスロジック、データソースの3つの部分が統合されています。そのため、バラバラに開発するときと比べると、少なくとも3倍は効率的です。実際にシステムの画面を見せながら顧客と打ち合わせをすることもできます」(荒地氏)

ファイルメーカーのウェブサイトでパートナー企業を検索できる
ファイルメーカーのウェブサイトでパートナー企業を検索できる

AWSで動作するクラウドサービスも提供開始

 FileMakerは、ビジネスで本格的に使い込めるプラットフォームでありながら、手頃な価格で導入できる点も企業にとってはうれしいところだ。FileMaker Pro 17 Advancedの希望小売価格はフルバージョン版が5万7600円(税別、以下同)、アップグレード版が2万2800円となっている。

 チーム向けのボリュームライセンスも用意されており、5ユーザーで年間9万6000円。1ユーザー当たり年額1万9200円、月額1600円相当で、FileMaker Pro Advanced、FileMaker Go、FileMaker WebDirect、FileMaker Serverを利用できる。なお、iOS用アプリ「FileMaker Go 17」は無料でダウンロードできる。

 FileMaker Serverは、カスタムAppを共有するするためのサーバソフトウェアだ。オンプレミス環境での構築が前提となる。しかし、今どきはクラウド型で展開したいというニーズもあるだろう。そこで、2017年7月に日本でもクラウドサービス「FileMaker Cloud」が提供開始され、Amazon Web Services(AWS)のクラウド環境で手軽に使えるようになった。複数支店を持つ企業を中心に導入が広がっているとのこと。

 ちなみに、カスタムAppはスタンドアロン環境での利用も可能。デスクトップではFileMaker Pro Advancedで、iOS端末ではFileMaker Goで動作する。例えば、外出先ではiPhoneのFileMaker Goでデータを入力し、オフィスに戻ってからデスクトップにあるデータベースと同期するといった運用もできる。

 最後に、ローコード/ノーコードプラットフォームの視点からFileMakerの戦略を聞いた。

 「2010年にiPadが登場して以降、ビジネス活用に悩まれている人が非常に多く、FileMakerはそういう人に“刺さる”製品だと思います。Excelや紙書類を使っている業務をカスタムAppに置き換えてペーパーレス化を進めれば、業務の効率化が期待できます。iPad/iPhoneのビジネス利用は年々伸びており、我々はその領域で拡大していけると考えています」(荒地氏)

 ローコード/ノーコード領域で30年来のビジネスを展開し、創業以来、四半期決算では黒字を継続しているという。この市場における自信も納得するところ。既に確固たる地位を築いているのに、想像以上にドラスティックな進化を遂げており、今後も目を離せなさそうだ。

柳谷智宣(やなぎや・とものり)
ITライター(https://peraichi.com/landing_pages/view/yanagiya

1972年生まれ。1998年からIT・ビジネスカテゴリのライターとして、さまざまな雑誌、書籍、ウェブ媒体で執筆している。近年は、クラウドサービスやスタートアップ関連の動向を注視しており、多数の企業に取材、実際にプロダクトに触れることも多い。飲食店も経営しており、「原価BAR」を都内4店舗、「花円(KAEN)」をウランバートルにて展開中。著書に『銀座のバーがウイスキーを70円で売れるワケ』『Twitter Perfect GuideBook 改訂版』『クラウドの達人はなぜChromeを使うのか』『Dropbox WORKING』など。

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