ブロックチェーンの最も特筆すべき特徴の1つは、その中にユートピアを指向する考え方が流れていることだろう。巧妙な数学によって支えられた信頼の分散ネットワークであるブロックチェーンは、銀行や政府といった既存の権威を代替できる可能性があるという考え方だ。
ビットコインはそのブロックチェーンの特徴を体現している。誰でも自由に参加でき、誰の統制を受けることもなく、暗号を使って取引の安全性を確保しながら、誰でも取引の内容を確認できる分散デジタルネットワークだ。ビットコインはどの国のものでもない新しい通貨なのだ。
熱心な暗号アナーキストは、ビットコインやその他のブロックチェーンに基づく仮装通貨の成功はその潮流の最初の事例であり、ブロックチェーンは社会のあらゆる領域で同様の影響を与えうると主張している。この技術は、アクションの透明性を確保して万人に可視化する信頼のピアツーピアネットワークによって、銀行や政府などをはじめとするあらゆる既存の権威を代替することができ、将来は暗号アナーキストのユートピアに導いてくれるというわけだ。
例えば、暗号によって安全性を確保した分散型台帳を使えば、身元の保証も、政府に任せる(パスポートやIDカードのデータベースなど)のではなく、自分でデータを管理できるかもしれない。
しかしこのビジョンは、果たしてどれほど現実的なのだろうか。
来たるべき革命?
欧州議会が2017年に発表した「How blockchain technology could change our lives」(ブロックチェーン技術は生活をどう変えるか)と題したレポートには、「ブロックチェーン技術はテクノロジによって、日常的なやりとりに対する統制力の一部を、中央のエリートからユーザーに再分配している。これによって、システムはより透明になり、場合によってはより民主的になるかもしれない」と述べられている。
ただし、レポートでは次のように続いている。「実際、ブロックチェーンの研究開発に多額の投資を行っている政府や大手企業の目的は、自らを時代遅れにしようとしているのではなく、サービスを強化しようとしている」
現時点では、ブロックチェーン技術の諸要素は、既存の権威を破壊するためというよりも、それらが持っている問題(特にデータのセキュリティや信頼性に関するもの)を修正するために使われている。ブロックチェーンに類する技術は、一部の面倒な問題を解決できる強力な特徴を持っているが、今のところシステムを破壊するために使われることはなさそうだ。