ガートナーの見解から探る、デジタル変革の先にあるCIOやIT部門の意義

國谷武史 (編集部) 2018年06月06日 08時29分

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 企業における“ビジネスのデジタル化”がバスワードのように叫ばれる昨今、それを主導するのは多くが事業部門であり、かつて“企業内のデジタル化”を主導した最高情報責任者(CIO)やIT部門の存在意義は、相対的に薄らいでいるように映る。“ビジネスのデジタル化”が進んだ先は、どうなるのか。

Gartner リサーチ&アドバイザリ部門エグゼクティブ バイスプレジデントのPeter Sondergaard氏
Gartner リサーチ&アドバイザリ部門エグゼクティブ バイスプレジデントのPeter Sondergaard氏

 米Gartner リサーチ&アドバイザリ部門エグゼクティブ バイスプレジデントのPeter Sondergaard氏は、“ビジネスのデジタル化”の現状について、その多くが個々のプロジェクトとして取り組まれ、散逸していると指摘する。“ビジネスのデジタル化”とは本来、企業自身が古い事業モデルから脱却し、新しいモデルを生み出すことで変化するためのものだが、企業全体でそれを推進する一貫した戦略が欠如しているという。

 同社は、“ビジネスのデジタル化”が「IT」「エコシステム」「顧客」「モノ」の4つの要素とそれらを束ねる「インテリジェンス」によって構成されるプラットフォームによって実現されるものと説く。4つの要素のうち1つか2つかに偏るのでは、企業全体として目指す変化の姿を実現するに当たって整合性を欠く状況を生む。例えば、IT部門主導のデジタル化は社内の業務プロセスを変化させるに過ぎず、顧客に向いた事業部門主導のデジタル化と、どう有機的に結び付けるべきかに悩む。

 Sondergaard氏は、スタートアップあるいは小規模企業が“ビジネスのデジタル化”を迅速に推進しやすいのは、企業全体のビジネスが単一のものであるからだという。一方、多種多様なビジネスを展開する大企業は、個々のビジネスでデジタル化を推進しても、それらを全体で推進するにはあまりに複雑であり、5~10年といった長い時間を要すると解説する。これを打開するには、企業全体でビジネスのデジタル化を推進する戦略に基づき、上記の4つの要素に照らして必要なテクノロジを選び、新しいデジタルビジネスのアーキテクチャを確立する。

 Sondergaard氏は、「仮に、Amazonのような従来にない全く新しいビジネスモデルを創造するという戦略なら、その実現に至る道のりは大変に厳しく、現状で抱える多くの課題を克服しなければならない。我々の調査では、賢明な経営責任者の多くが、既存のビジネスモデルを着実に変化させていく戦略を選んでいることが分かる」と話す。

 一例として金融分野を挙げ、FinTechと呼ばれるデジタル技術を利用した新しいビジネスモデルに向けて、まずはインターネットバンキングの提供やモバイルアプリの開発、ソーシャルメディア活用といったオムニチャネル化に乗り出した。次にIoTなど新しい要素を既存のサービスに組み入れ、新しいモデルに変化させる。実際に自動車保険では、従来は運転者の年齢に応じて保険料を設定するモデルだったが、現在はスマートフォンや車両のセンサなどから算出した運転者の操作スタイルに基づいて保険料を設定する新しいモデルが導入されている。

 ここでは、保険会社が単独で保険料モデルを変化させているわけではなく、自動車メーカーやデータ分析のスペシャリストといったパートナーとの「エコシステム」によって進められている。そこには、「過大な保険料の支払いを適正化したい」という保険会社の事業部門の目的や、「より安全な自動車を実現したい」というメーカーの事業部門の狙いなどがある。CIOやIT部門が、これらビジネス側の目的を踏まえてその具現化に必要なテクノロジの選び出す“目利き”――というのが、“ビジネスのデジタル化”でCIOやIT部門に期待される存在意義の一つと言える。

ガートナーの見解では、“ビジネスのデジタル化”に関わる主要なテクノロジだけでもたくさんあり、ビジネス側とテクノロジ側の2つの視点で、目指すビジネスモデルに即した事業基盤を確立しなければならないという
ガートナーの見解では、“ビジネスのデジタル化”に関わる主要なテクノロジだけでもたくさんあり、ビジネス側とテクノロジ側の2つの視点で、目指すビジネスモデルに即した事業基盤を確立しなければならないという

 ただし、現状でこうした役割の多くは事業部門側が担い、さらには「チーフデジタルオフィサー」と呼ばれるような全く新しい立場が“ビジネスのデジタル化”を主導する状況も生じつつある。“企業内のデジタル化”を主導してきた旧来のCIOやIT部門がその存在意義が失われかねない事態に直面しつつある。

 Sondergaard氏は、テクノロジの世界ではメインフレームからクライアント/サーバへ、クライアント/サーバからクラウドコンピューティングへ、さらにはクラウドコンピューティングからエッジコンピューティングへというように、リソースの集約化と分散化が繰り返される“振り子”の歴史をたどってきたと解説する。それに照らせば、現在の“ビジネスのデジタル化”における主役としての振り子は事業部側に寄っているが、デジタル化の先には再び振り子がIT部門側に戻ってくる可能性があるという。

 その理由は、事業部側にとって必ずしも全てのテクノロジがビジネスのコアコンピタンスというわけではなく、いずれ集中と選択を迫られる。さまざまなビジネスを抱える企業が全体でデジタル化する過程には、やはり全社規模でテクノロジを支える役割が必要とされ、とりわけサイバーセキュリティのような重要課題に対処する上では不可欠になる。

 Sondergaard氏は、“ビジネスのデジタル化”では今後も人工知能(AI)やクラウド、ブロックチェーンといったテクノロジの重要性が増していくと説く。その反面、多くの企業が誤解しているという「欧州のGDPR(一般データ保護規則)の対応はIT部門の仕事」といったコンプライアンスなどは、ビジネス課題だとも指摘する。

 CIOやIT部門は、事業部側とともに“ビジネスのデジタル化”を推進する役割を担うべきか、あるいは“ビジネスのデジタル化”の先に戻ってくる旧来の役割に徹するか、もしくはその両面の役割を同時並行で担うべきか――少なくとも“ビジネスのデジタル化”とは、テクノロジとビジネスの2つによって成立し得るものであり、その両面に関わることができるCIOやIT部門の存在意義は、現在もこれからも重要なものであることに変わりはない。Sondergaard氏の見解からは、むしろCIOやIT部門に、自らのスタンスを明確に示すことができる絶好のチャンスが到来していると言えそうだ。

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