エンタープライズIT分野で今、勢いに乗っているベンダーの1社が、米ServiceNowだ。先に発表されたForbes誌の「最もイノベイティブな企業」では、Workday、Salesforce.com、Teslaを抑えて、いきなりナンバーワンに躍り出た。2017年の売上高は19億3000万ドルで、前年から39%も増加した。2018年も30%成長を見込んでいる。
同社は、いったいどのような企業なのか――ServiceNowのイベント「Knowledge 2018」では、創業者のFred Luddy氏が、最高経営責任者(CEO)のJohn Danahoe氏と対談し、設立の背景やビジョンについて語った。
若くはなかった起業
ServiceNow創業者のFred Luddy氏。現在は取締役会長を務める。これまでのキャリアで学んだ最大のことは、「全てを知らなくても良い、聞くことができるということだ」と語る
ServiceNowは、ITヘルプデスクなどのITサービスマネジメント(ITSM)をクラウド経由で提供するSaaSベンダーだ。創業は2003年。現在63歳のLuddy氏は当時49歳で、決して若くはなかった。
創業前のLuddy氏は、ITサービス・資産管理のPeregrine Systemsで最高技術責任者(CTO)を務めていた。2003年にPeregrineは、会計スキャンダルとそれに続く破産に見舞われた。そこでLuddy氏は、ServiceNowの開発に至るが、Peregrine時代から“ITはもっと簡単であるべき”と思っていたようだ。
「『ITが社員をどのように扱うのか』という点でフラストレーションを感じていた。IT部門は普通の人にとって難しすぎる。Excelなどのおかげで、社員の技術への理解は高まっているが、どうすれば低い技術レベルでも自分たちでアプリケーションを構築できるだろうかと考えていた」――と振り返る。そこでオフィスサービスを開発するも、「インターネット上でそのようなものが提供されているとは誰も知らず、結局売れなかった」とLuddy氏は苦笑する。
当時はまだクライアント/サーバが主流で、「Internet Explorer 5.5」が市場を独占していた。クラウドはまだ新しかったが、「これまでとは違う方法でやる。ライセンスも実装もアップグレードも新しい方法でやる」と決意していた。
Luddy氏は、ワークフローを構築するためのシンプルなプラットフォーム「Now Platform」を作った後、ITサポートにフォーカスすることで、市場に少しずつ受け入れられるようになった。
「最初の日に描いたプラットフォームが現在も土台だ」とLuddy氏。ServiceNowは、自社を説明する時、今でも「普通の人が効率良く仕事をやり取りできるクラウドベースのプラットフォームを構築する」というLuddy氏の言葉を引用している。
“普通の人”に使ってもらうため、同氏はユーザーインターフェースの改善を重ねた。根底にあるのは、キャリアをスタートした際にメインフレーム時代に学んだという「顧客をハッピーにするために、できることは全てする」という精神だ。これは“Listen, Learn and Act”という言葉でも代弁されている。
ServiceNowは単一のプラットフォームに、ITSMからカスタマーサービス、セキュリティ、人事管理などに分野を拡大した。2012年にはIPOも実現した。当時の評価額は20億ドル、現在はその15倍の時価総額は300億ドルを超えている。
会社が大きくなり、資金調達に成功する一方で、Luddy氏は自身が“経営のプロ”ではないと判断し、外部からCEOを迎え入れる決断を下した。その1人目はFrank Slotman氏で、同社をスタートアップから成長させた。これに伴い、Luddy氏は最高製品責任者(Chief Product Officer)に。そしてITSMから本格的にサービス提供分野を広げ、コンシューマーのような使いやすさで訴求するという点から、2017年に元eBayトップのDanahoe氏がCEOに就任した。この時にLuddy氏は、CPOの座もEMCから招き入れたCJ Desai氏に譲っている。
「2018年、クラウドコンピューティングのエコシステムは落ち着いたものになった。以前のように、次々と入れ替わるハイプサイクルではない」とLuddy氏。また、「素晴らしい人材を獲得することができた」とも語る。外部から起用した経営陣だけでなく、ゲーム業界の経歴をもつデザイナーなど、「自分とは違う世界を理解している人」こそ、企業を成長させてくれると考えているようだ。