これからのGDPRの対応で踏み外してはいけない“基本”とは何か - (page 2)

國谷武史 (編集部) 2018年06月11日 06時00分

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GDPR対応の勘所

 こうしたことからGDPRでは、その対応において具体的かつ詳細な要求項目を定めているわけではなく、あくまで個人データやプライバシーの保護に関する“基本的”な取り組みを求めているに過ぎない。この点が日本企業におけるGDPR対応の難しさになっているようだ。

 岩瀬氏は、GDPRと日本の個人情報保護法との違いから、GDPR対応を進める上での注意点を幾つか挙げている。例えば、個人データの定義は、どちらも氏名などの明らかな個人情報や、組み合わせなどから特定の個人を識別できる情報を個人情報と定義する。ただし、GDPRではIPアドレスやcookieといった情報が「オンライン識別子」と定義されているなど、個人データの概念という点では個人情報保護法よりも対象と“なり得る”範囲が広いと話す。

 ここで“なり得る”というのは、現時点のGDPRが対象範囲やデータの種類などを全て厳密に定義さしているわけではないためだ。このため、「どの情報がGDPRの対象になるのか分からない」と悩む日本企業は多い。阿部氏は、企業のビジネスでビッグデータの有効利用が期待されていることから、この点は非常に懸念されると指摘する。個人データの定義や解釈は、今後の情勢やGDPRの運用状況によって移り変わると予想され、継続的に注視する必要がある。

 GDPRが施行されたとはいえ、さまざまな調査からGDPRの要求項目の順守を含めて“完璧”な対応を実現している企業は皆無に近い。阿部氏は、現時点において必ずしも“完璧”な対応を実現している必要はなく、企業が規制当局に、GDPRの取り組みを計画的に進めている状況を説明できることが大切だと話す。

 例えば、GDPRの第30条では組織的な措置として、「データ処理活動の記録」を要求している。これは、個人データを取り扱う企業やその企業から委託を受けて処理作業を行う企業などに、個人データの処理作業の記録として保存することを義務付けたもので、そもそも記録がなければ、規制当局に個人データの取り扱い状況を説明できない。「データ処理活動の記録」は、GDPR対応における最低限の取り組みになる。

 加えて岩瀬氏は、該当する企業では35、36条で要求している「データ保護影響評価」の整備も必要だと話す。これは「データ処理活動の記録」の上位にあたるもので、企業が行うデータ処理活動から個人の権利に高いリスクが生じルことの無いよう事前にその影響を評価し、適切な保護の取り組みを定めておくものになる。

 GDPRは、「体系的かつ広範なプロファイリング」や「センシティブなデータの大規模処理」を提起しているが、具体的な例としては、企業が従業員の職場やインターネット上での行動を体系的に監視するために、ソーシャルメディアからユーザーのプロフィール情報を収集するといった行為があるという。阿部氏も、企業が従業員同士で業務情報を共有するといった以外の目的で監視行為を行えば、人権侵害としてGDPRに抵触する可能性があると指摘する。

 この他にもGDPRでは、「データプロテクションオフィサー(DPO:データ保護責任者)」の設置や、データ侵害時に原則72時間以内の当局への報告(72時間ルール)を求めている。DPOの設置は全ての企業において義務ではないものの、「体系的かつ広範なプロファイリング」や「センシティブなデータの大規模処理」を行う組織では、DPOの設置が必要になる。また、DPOの設置基準が国によって異なるケースがあり、例えば、ドイツでは10人以上の従業員が継続的に個人データの処理を行っている拠点でDPOの設置を要求している。

 一方、欧州に事業拠点がないという企業では、DPOを設置する代わりに、欧州の「代理人」を書面で設置することを求めている。ここでは、例えば、日本企業が欧州のコンサルティング会社と「代理人」契約を結んで対応するといった方法がある。

 また72時間ルールにおけるデータ侵害は、偶発的または違法に個人データが破壊、損失、変更されたり、許可を得ない開示やアクセス(情報漏えいや不正アクセス)が行われたりする状況と定義されいる。阿部氏によれば、具体的な対応例として、事前にCSIRTの対応手順を定めておき、取引先や委託先などに対してデータ侵害をすぐに検知、報告してもらう体制を整備し、万一の際にそれらが機能することを確認しておく必要がある。

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