企業セキュリティの歩き方

セキュリティ人材論--人手不足でもリストラを行う不思議な日本 - (page 2)

武田一城 (ラック) 2018年06月13日 06時00分

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日本の人材不足

 日本の総人口は、数年前をピークに減少し始めている。しかし、人口減少の問題は最近の話ではなく、出生率が自然減となるボーダーラインの2.07を大きく下回るようになった1970年代に、既に始まっていたのだ。最近まで総人口が減少しなかったのは、日本の平均寿命が長い間右肩上がりに延び続けた影響に過ぎない。つまり、高齢者の比率が高まり、実際に働く人は総人口の減少が始まるよりも前から減少していたのだ。

 その結果、日本中どこでも人材不足が発生し、特にそのあおりが不人気な業種・業態で如実に表れている。また、IT業界もバブルに沸いた1990年代や2000年代初頭とは異なり、現代では決して人気業界とは言えない。しかし、SEなどの人材不足が現時点で大きな問題となっていないのは、30代半ばから50歳くらいのボリュームゾーンが多いためである。

 それは当然のことで、そのボリュームゾーンが社会人となる以前の30年~40年前にインターネットはなく、今ほどPCやスマートフォンなどが身近なものではなかったからだ。当時のコンピュータはごく一部の人たちのものであり、それに携わる人の絶対数も多くなかった。しかし、そのボリュームゾーンの世代が引退し始める2030~2040年ごろになると話は変わる。若い人材に人気の無い業種の多くで人材不足が常態化するだろう。前回述べた保安、建築・土木や介護サービスのように、有効求人倍率が何倍にもなることが予想される。むしろ、IT業界こそが人材不足の大本命になるかもしれない。

労働人口の推移(出典:厚生労働省「労働経済の基礎的資料」)
労働人口の推移(出典:厚生労働省「労働経済の基礎的資料」)

IT業界における人材不足の深刻さ

 現時点で、不人気かつ人材不足の業態は、一般的に高賃金が見込めずに長時間労働を強いられるものが多い。ITの業界も、以前は「デスマーチ」などと呼ばれるプロジェクトに代表されるような長時間労働が常態化していたが、それも改善しつつある。さらに賃金も、会社の規模や事業内容などによって差はあるが、決して待遇が悪いわけではない。悪いどころか、平均年収が1000万円台という会社もあり、現在の日本においては高待遇が期待できる業種の方に入るだろう。

 それでも、今後のIT業界の人材不足は深刻さを増していくことが予想される。なぜなら、既に世の中のほとんどのものがシステムやネットワークなどの仕組みとは無縁ではいられなくなってきているからだ。今後、さらにその対象範囲が拡大していくため、絶対的な作業量が増えてしまう。そして、SEやプログラマーなどの育成に時間がかかるのも深刻な問題だ。一定以上のスキルを持ち、経験値を積み重ねなければならず、とにかく時間がかかる。またこの分野は、関連する技術への興味がないと苦痛でしかなく、そのような人たちには非常に敷居が高いという面もあるのだ。これらの要素は、候補者の絶対数が少ないという事を示しており、他の業界の人材不足よりもこの業界のそれが深刻になることの要因になるかもしれない。

 このことを国家的な課題と捉えての対策なのかは定かではないが、2020年に実施される小学校のプログラミング教育は、IT業界の人材不足の改善にとって追い風になるだろう。もちろん全国の小学生がプログラマーやシステムエンジニアを目指そうとはならないだろうが、ITベンダーへの依存度の高過ぎる日本のユーザー企業において、システムを提供する側の理解が深まれば、クラウド活用などもしやすくなる。その結果、IT業界の人材リソースが現在よりも有効活用しやすい世の中になるはずである。

 しかしながら、高校で必修化された情報科もまだまだ試行錯誤の状況を突破できずにいることを考えると、正直このような学校教育の施策がすぐさまIT業界の救世主になるような状況を望むのは難しいだろう。

 このように、現在の日本経済は戦後の高度経済成長とバブル期を経て、重大な岐路に立たされている。バブル崩壊後にこのような時代の到来が何度も叫ばれ、正直聞き飽きてしまった感もあるが、これが失われた20年となった今日では待ったなしの状況になっている。その結果、さらなるリストラを必要としているのだろう。そこに、同じく放置されていた少子高齢化が拍車をかけ、人材不足なのにリストラをするという不思議な状況を生んでしまったのだ。

 次回は、このような状況を生むことになった根本的な考え方とともに、IT人材不足よりもさらに大変そうなセキュリティ人材不足について述べていきたい。

武田 一城(たけだ かずしろ)
株式会社ラック
1974年生まれ。システムプラットフォーム、セキュリティ分野の業界構造や仕組みに詳しいマーケティングのスペシャリスト。次世代型ファイアウォールほか、数多くの新事業の立ち上げを経験している。web/雑誌ほかの種媒体への執筆実績も多数あり。 NPO法人日本PostgreSQLユーザ会理事。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)のワーキンググループや情報処理推進機構(IPA)の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会での講演なども精力的に活動している。

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