ビジネスシステムをクラウドへ移行する際に直面する問題は、技術的なものばかりではない。人材の獲得や企業戦略、財務モデルなどをはじめとして、考慮すべき問題は多岐に渡る。
英国のガス会社SGNの情報技術担当ディレクターAndrew Quail氏は、最近ロンドンで開催された「AWS Summit」で、同社がクラウドへの「全面移行」をどう進めてきたかについて議論した。
Quail氏は、ガスの供給は古くからある事業だが、この業界では多くの変化が起こっていると述べている。
「わが社のビジネスに対する需要を考えると、やり方を大きく変える必要があった。わが社が持っていた技術や戦略は、業務を止めないためのものだった。安定供給がすべてだった5年か10年前であればそれでも問題はなかったが、事業に対する需要の増加と変化の幅の大きさによって、多くの変化に対応できなかったIT部門がボトルネックになってしまった。事業部門にサービスを提供するには、戦略を根本的に変える必要があった」とQuail氏は言う。
以前のSGNではITインフラが十分に利用されておらず、同社は最終的にインフラをリプレースして全面的にクラウドを採用する戦略を選んだ。ガス管の検査にロボットを使用するといったイノベーションは極めてデータ集約的であり、2~3キロメートル分のガス管検査映像とセンサデータだけでも、生成されるデータは膨大なものになる可能性がある。「従来のオンプレミス戦略では、事業部門がやっていることを支える方法はなかった」と同氏は付け加えた。
クラウドを理解する
SGNはまず、クラウドコンピューティングに対する理解を深めるために、実験に多くの時間を費やした。Quail氏は、「十分な情報をもとにサービスを購入できるように小規模なチームを編成して、われわれがたどろうとしているプロセスについて理解し、あらかじめ基盤となる作業を行おうとした」と述べている。
同氏によれば、クラウド移行プロジェクトで最初にやったことは、大局的な企業戦略と整合性が取れるIT戦略を策定することだったという。これには、セキュリティ、レジリエンス(回復力)、サービスの安定的提供、機動性と新たな成長機会に対応する能力の改善が含まれていた。同社は、レジリエンスを向上させるためにクラウドサービスを複数のリージョン、複数のアベイラビリティゾーンに広げることを選択したほか、15%のコスト削減を実現した。削減幅の大半は、クラウドモデルへの移行でITインフラの購入が不要になったことによる、設備投資費の減少によって賄われた。