多くの業界が少子高齢化に伴う人材不足に直面する中、建設業界ではITを活用した業務効率化の取り組みが加速しているという。ソリトンシステムズが6月26日に開催したセミナーで大成建設と西松建設、竹中工務店が取り組みを紹介した。
建設ITの現場と大林組の取り組み
大林組 グローバルICT推進室担当部長の堀内英行氏
IT化が進む建設の現場で近年、導入が急速に進んでいるのがスマートデバイスだという。日本建設業連合会の先端ICT活用専門部会の調査によると、2016年度の導入率は81.6%だったが、2017年度は96.0%にまで上昇した。約半数が直近の3年間にスマートデバイスを導入している。
主査を務める大林組 グローバルICT推進室担当部長の堀内英行氏によれば、現場のスマートデバイス利用で最も多いのが、図面の閲覧になる。この他にも現場写真の管理やコミュニケーションツールとしての利用効果を実感しているとの回答が多い。
導入効果は、主に生産性の向上、業務精度・スピードの向上、コミュニケーションの向上、業務改革意識の向上の4つになる。例えば、コミュニケーションの向上ではウェブ会議やテレビ電話などを利用した現場状況の把握などがあり、これまでオフィス内が主体だったこうした取り組みが、屋外などの建設現場にも広がりつつある状況が見て取れる。堀内氏は、ITを利用した業務改革の効果を実感して、実際に現場業務のやり方を変えていこうという意識が着実に広まり出したと語っている。
建設現場のスマートデバイス活用で認められた効果
現場業務のIT化には、さまざまなケースがあるが、その一例が作業工程表の“デジタル化”だ。従来は、ホワイトボードに手書きで日別の作業内容を掲示するケースが多かったが、まずLED表示化によって掲示する情報量が増え、昨今ではデジタルサイネージの利用も増えている。建設現場のデータがクラウド上で共有されており、ネットワークとSTB(セットボックス)を介して現場に設置されたディスプレイへさまざまな情報を表示できるようになった。近隣への情報提供や当日の気象状況をもとにした作業での注意喚起などが可能になっている。
この他にもクラウドサービスや人工知能(AI)、仮想現実(VR)などの新しいテクノロジを用いたソリューションも多数導入されつつあるという。
堀内氏は、自社の事例として大林組が開発したVRを利用する施工管理者向け教育システム「VRiel」を紹介。VRielでは、さまざまな工事現場の状況を再現したVRコンテンツをヘッドマウントディスプレイに投影し、ビル情報管理データを組み合わせて現場業務をシミュレーションできる。従来は、教育内容に応じて模型などを使う手間があったが、VRielによって効率的な施工管理者の育成を進められるようになったという。
また、大林組では2012年に約3100台のiPadを導入し、現在は約8000台に拡大。現場での利用を支えるWi-Fiアクセスポイント(AP)の更新も進めている。これまで約600カ所の国内作業所にAPを導入しているが、現場には協力会社など複数の関係者が出入りすることから、セキュリティを理由に設定用アカウントなどを現場に伝えておらず、このことが逆にファームウェア更新をタイムリーに行えないなどのセキュリティリスクや接続の不安定さといった課題につながっていた。
「VRiel」を利用したトレーニングシーン。VRのヘッドマウントディスプレイと手に装着するセンサを使いながら、鉄筋の配置ミスを把握し、その理由を回答するというもの
新たなAPには、複数の機器を統合管理できるフルノシステムズ製の「ACERA1010」および管理ソフト「UNIFAS」を採用し、ファームウェア更新の効率化や利用状況の可視化といったセキュリティの強化を図っているという。