現在は多くの人々が小型で高性能なコンピュータ端末を持ち歩き、それが世界中のコンピュータや各種の機器にネットワークを介してつながっている世界である。もはやそれを当たり前のように思っている人が(特にこの記事を読んでいるような人の中では) ほとんどであろうが、スマートフォンが普及し始めてからまだほんの 10年ほどしか経っていない。ウェブが普及しインターネットの活用が当たり前になってきてからも、20年ほどである。
ネットワークの有無はユーザーにとってのコンピュータの活用の幅・性質を大きく変える。手元にない機器や遠方の人の持つ機器にアクセスできたり、メッセージを届けられたりすることの意味合いは計り知れない。その際に出てくる話の1つが「どこに」「どれに」である。どこにアクセスする、どの機器にメッセージやデータを届ける、というのはユーザーはどうやって指定すればよいのか。今回はその周辺の話である。
名前をつける
コンピュータにとって一番扱いやすいのは数字(番号)であり、インターネットを支えるプロトコル(通信の規則・手順)でも一番下にあるのは数字の列によるアドレスである。インターネット上のアドレス、IPアドレスでは固定長の数字の列を、サブネット(ネットワークの部分的な領域)を表す部分とサブネット内での番号を表す部分に分けて使う。
番号を指定して機器を指定するのでは人間にとって分かりづらい (確認もしづらい) ので、当然、文字列で表現した名前をつけられるような工夫がなされる。文字列による名前と番号の対応は、データベースで管理される。名前も「インターネット上でただ一つの固有の名前」とするためには階層的な名前付けが使われる。URLのサーバを表すアドレス部分にも使われる形式であるが、(現在の) ウェブサービスなどではこれが特定の一台のコンピュータを指しているとは限らないので注意されたい。
1つの機器に名前を複数つけられるようにもなっており、「固有の名前」的なものと、ウェブサーバがwwwであったり、メールサーバは mailだったりするような「役割に応じた名前」が与えられることも多い。そのようにしておくと、サーバを入れ替えつつ、サービス自体は同じ名前でアクセスでき、ユーザーに設定変更などの手間を掛けさせずに済む。
ちなみに昔は (今でもそういう運用をしているところはあると思うが)、組織や研究室などの LAN 内のコンピュータ端末にどういう名前をつけるかは、組織もしくはそこのネットワーク管理者の趣味が色濃く反映されていた。例えば、筆者が学生のときに所属していた研究室ではジャズミュージシャンの名前が使われていて、向かいの研究室は星(恒星)の名前が使われていた。名前の付け方で、どこにあるコンピュータであるかがある程度推測できたというのもおもしろい要素である。
コンピュータネットワークが一般に普及する前であったので、「コンピュータに名前を付ける必要」というのは一般の人々には理解しづらいものであり、友人に話すと怪訝(けげん)な顔をされることもあった。愛玩のために名前を付ける、というようなことと混同されたのである。「名前を付ける」ということにまつわるエクスペリエンスはまた別の機会に取り上げたい。