展望2020年のIT企業

「デジタル破壊に備える」と訴えるガートナーの亦賀氏

田中克己

2018-07-17 07:00

 「破壊に備える」。ガートナージャパンで最上級アナリストを務める亦賀忠明氏は同社主催セミナーで、「10年以内に企業がなくなることを前提に、何をなすべきか議論すること」とし、IoTやAIなどを駆使したデジタル化が既存ビジネスに大きなインパクトを及ぼし、事業構造の変革に迫られると指摘した。

 例えば、トヨタ自動車の豊田章男社長は「100年に一度の大変革だ」とし、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)への構造転換を進めている。良い車を開発すれば、売れる時代が終わり、かつ車をシェアリングする時代への対応が求められるということだろう。2018年1月の情報家電見本市CES2018で発表したe-Paletteは、その方向を示す“未来のモビリティ”に思える。亦賀氏は「デジタルは10年前にできなかったことを、できるようにすること。サイエンス・フィクションがサイエンス・ノンフィクションになる」と説く。

 多くの企業は変革を認識している。ガートナーが企業に「もしアマゾンやグーグルが乗り込んできたら、自社のビジネスはどうなるか」と質問したところ、12%が「自社のビジネスが破綻する」、約36%が「破綻しないまでも、かなりの浸食を受ける恐れがある」、約24%が「自社のビジネスの成長機会が奪われる」と回答する。7割以上が危機感を持っているということだ。

 ところが、IT部門らが亦賀氏に質問するのは「AIやIoTのPoC(概念実証)をしたが、次に何をしたらいいのか」だという。その多くはデジタル化の目的なしに、取りあえず取り組んでみたということなのか。経営ビジョンを実現する本気度が問われる。

10年以内にM1はなくなる

 「10年以内にモード1(M1)はなくなる」と亦賀氏は予想する。M1とは、効率化やコスト削減のために、数年かけて作り上げる伝統的なシステムのこと。代わって、1000万人、1億人の顧客を対象にするシステムをすぐに作って、稼働させるM2が主流になる。デジタルを活用した新しいビジネスを創出する柔軟な生き乗るためのシステムでもある。

 システムが変われば、求められるスキルも変わる。IT企業にシステム構築を依頼する作業者ではなく、テクノロジーを駆使する人材になる。「芸風も違う」(亦賀氏)。人の心を動かす振る舞い方をするとかだ。それは決められたことをやるコーダではなく、自分で追及するクリエーターでもある。そのためには、海外で経験を積ませて、エンジニアに世の中を変えるという意気込みを持たせる。そして、「自分で運転する技術を持つ」(亦賀氏)。内製化だ。「AIやブロックチェーンなどのスキルなしで、F1レースに参加するのは難しい」(同)。ここでのFIレースとは、先端技術を駆使したビジネス競争のことだろう。

 実は、学ぶ機会はいくらでもある。AIやブロックチェーンなどに関する専門学校をはじめとする教育の場は次々に設立されている。たとえば、ダイキン工業は大阪大学に2017年7月から10年間に約56億円の資金提供し、AIやIoT技術などを学んだり、共同研究をしたりし、2020年までにAI人材を700人育成するという。人材育成費はけちらない。オフィスもいまどきにし、働き方を含めた企業風土の改革に取り組む。人材育成を怠った企業は、勝ち残れない。

収益源を失う破壊の影響

 M1がなくなることは、SIがなくなることを意味する。IT企業は受託開発という収益源を失う。たとえば、月額数万円で利用可能なクラウド型会計ソフトは、システム開発を請け負うIT企業だけではなく、税理士にとっての破壊者にもなる。データ入力が自動化されて、決済データの蓄積、分析が容易になれば、指導領域も侵される。

 アマゾン・ドット・コムのクラウド事業が、IT産業の構造を大きく変えたように、あらゆる業界に破壊の波が押し寄せている。ガートナーの同じセミナーで講演したディ−・エヌ・エー(DeNA)の成田敏博経営企画本部IT戦略部部長は「破壊に対する危機感を持って、常に新しいことに取り組んでいる。破壊の時代は、自社だけでは生き残れないので、あらゆる事業領域で他組織と共創する」と話していた。だから、DeNAは新しいことに次々に挑戦しているのだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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