サイバー攻撃と地政学的状況の関係性にも注目を--ファイア・アイCTOの伊東氏

國谷武史 (編集部)

2018-07-20 08:32

FireEye 最高経営責任者のKevin Mandia氏
FireEye 最高経営責任者のKevin Mandia氏

 ファイア・アイは7月19日、都内で法人顧客向けのカンファレンスを開催し、米FireEye 最高経営責任者(CEO)のKevin Mandia氏ら同社首脳陣がサイバーセキュリティ動向について解説した。この中では、国家が関与する高度なサイバー攻撃における一般企業などの対応ポイントが取り上げられた。

 Mandia氏は、FireEyeが2013年に買収したセキュリティインシデント対応サービスを手掛けるMandiantの創業者で、これに伴って2016年からCEOを務める。従前のFireEyeは、企業などのIT環境に侵入する脅威を解析するための「サンドボックス」機器メーカーだったが、現在ではインシデント対応や脅威動向分析、ITシステムのセキュリティ診断など、広範なセキュリティサービスを提供していると説明する。

 同氏の取り上げるセキュリティ動向のトピックの1つが、「サイバー攻撃には地政学的状況が反映される」というもの。サイバー攻撃の脅威には、無差別に膨大なフィッシングメールを流通させるといったものや国家の支援を受ける組織による諜報活動など、さまざまな種類がある。地政学的状況が反映されるサイバー攻撃とは、国家の支援を受ける組織によるケースが多く、標的は敵対国家の政府機関や重要人物であり、一般の民間企業や組織とは無縁と捉えられがちだろう。

 Mandia氏によると、同社が常時観測している国家の支援を受ける組織の活動について、例えば、中国由来とされる組織は、2015年9月に中国の習近平国家主席と米Barack Obama前大統領が交わしたサイバー攻撃に関する協定を契機に、その活動を激減させたという。一方で2016年ごろからは、ロシアやイランが由来とされる組織による攻撃が台頭しているとした。米政府は、ロシアが2016年の大統領選挙でサイバー攻撃を行ったとの主張を続ける。イランとの関係では、5月にDonald Trump現大統領が核合意からの離脱を表明したことで、サイバーセキュリティへの影響も注視される。

FireEyeが監視を続ける中国由来とされる攻撃者組織の活動状況の推移(2013年2月~2016年5月)。米中が協定を交わした2015年を境に大きく減少したという
FireEyeが監視を続ける中国由来とされる攻撃者組織の活動状況の推移(2013年2月~2016年5月)。米中が協定を交わした2015年を境に大きく減少したという

 こうした状況の中で同社は、最新の分析情報として「Sandworm Team」と呼ばれる組織が、日本の物流業界の企業に対してサイバー攻撃を行ったようだと発表した。Sandworm Teamは、主にロシアと敵対関係にある国の組織や企業のシステムを破壊する攻撃を繰り返しているといい、過去にはウクライナで大規模停電を引き起こしたとされる。

 過去のSandworm Teamの活動傾向から、日本企業に対する攻撃の目的は破壊行為が想定されたものの、同社は日本とロシアの間で北方領土問題などが存在するものの、少なくとも経済面などからは比較的安定した関係にあるとして、攻撃の目的は日本を通じた第三国の情勢を探る諜報活動である可能性が高いと分析している。

ファイア・アイ 最高技術責任者の伊東寛氏。7月1日付で就任した
ファイア・アイ 最高技術責任者の伊東寛氏。7月1日付で就任した

 ただ、Sandworm Teamの活動目的が仮に第三国の諜報だとしても、日本企業に影響が及んでいる。陸上自衛隊出身で5月まで経済産業省の大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官を務めたファイア・アイ 最高技術責任者の伊東寛氏は、個人の見解として、2017年にロシア政府がサイバー部門を強化したという動きから、今回の攻撃が同国による諜報活動の拡大の一環との見方を示す。

 政府の軍事組織は、たとえ関係国と良好状態にあっても相手の弱点を探る活動を常に行っているという。例えば、空軍が相手国の領空に迫り、相手国の空軍が緊急発進で対応するまでの時間を測るといったケースがあると解説する。

 伊東氏は、国家の関与する攻撃活動が民間レベルでは対処し得ないほどの高次の脅威だと解説。民間の企業や組織は、実際にその影響を受ける可能性があることを認識し、状況によっては政府の支援を受ける必要性もあると話す。

 加えて、上述した軍事組織が行う相手の弱点を探るような活動は、一般の企業や組織を標的にするサイバー攻撃でも同様だと解説。企業や組織のセキュリティ対策では、網羅的に取り組むよりも、自組織が致命的な状況に陥る弱点を正確に把握し、その弱点の防御を最優先に取り組むべきとアドバイスしている。

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